時は3月17日、土曜日。日付が変わって、少しばかりという夜分の頃合であった。
俺、忍足謙也は本日めでたく誕生日を迎えることになりました。
……めでたいやんか。ごっつめでたいやないか。二回言わしてもらったけど、てか普通にめでたいやないか!これで三回目ってアホか。
「は?何なの?馬鹿なの?アホなの?」
何?死にたいの?
なのに、
何がどうして、こうして彼女(のはずの女の子)から罵倒されなアカンの?泣いてええ?なあなあなあ。
「うっさいわボケェ…。ほな眠くて死にそうだから寝るわ。」
じゃね。
切れた電話。ツーッツーッ。手のひらに収まるサイズほどの優秀なる精密機械から空しく、鳴り響く。耳から離して、途方にくれて腕を下ろせば、表示された時間。ただいまの通話時間は、
3分17秒。
んなアホな。奇跡も運命も感じられへんわ。
0317!
どうも忍足謙也です。
…説明しよう!誕生日、とは!
誕生日は、人の生まれた日、あるいは、毎年迎える誕生の記念日のこと。
「『年』も付けて生年月日と同義に用いる場合もあるが、日付のみで記念日として用いることもある。…以上ウィキペディア参照おおおおお!!!」
「うっさいわ謙也。」
「ほんま煩いッスわ、先輩。」
「なんや今日はいつも以上にに喧しなあ!なあなあ銀ー!」
「金太郎さんに言われたらおしまい、やな。」
時は過ぎて、3月17日の朝方。早朝7時。四天宝寺中テニス部武室内、の部員ロッカーと壁の間。隙間というべき空間。丁度謙也一人が入れるサイズ。
ただいまをもってそれが検証された、という状況である。と、ここまでで説明終わりやで!どやどやどや?自分、誕生日の説明だけやと思ったんやろやろ?ふふん…て
ああああ!むなしい!
「大体してなんぼなんでもっ皆して煩い煩い言い過ぎやない!?」
泣くで!?
177センチの健全男子のデカイ図体を必死に縮こまらせて、入った隙間でこれまた体育座りをしては、顔をうずめて泣きまねをし出す学ラン姿の少年。まあ俺のことやな。えっあっ知ってます?すんませんなあ。
「きもい。」
「え〜?勝手に泣けばいいやんー。」
「ないッスわー。」
「野郎の泣きまねとかありえんやろ。許されんの小春くらいやでぇ。」
「そうそう女の子だ・け!ここではウチとマネージャー兼アンタのカノジョのなまえちゃんだ・け・ね」
はあと。ってモーホー軍団は黙らっしゃい!!
兼カノジョって付け足しなん?そうなん?
つかなんで今日そんな皆冷たいんの。なんでなんで?
俺もう深夜の時点でHPゼロなんやで?なまえさんからあんなん罵倒されてもう眠れんかったっちゅー話やぞ。いや寝たけど。てか泣きながら寝たけどな。まじ枕が濡れたってやつやで。古典か!もう塩辛いっちゅー話って、おいお前ら聞けや。何着替え始めてん。
「着替えな、朝練始められんやろ。」
そんなっ銀さん、さも当たり前と答えんといて…!
ちゅーか白石お前何適当にうんうん、言いながらスピードスター顔負けの速さで着替えてん「顔負け(笑)。」おいユウジ、そこ笑うとこやない。しばくで。白石もう頷くタイミング完璧ずれとるからやめや。何気にユウジの台詞のとこでうんうん言うたな。うんうん、やないでおいいい!ええ加減やめや!うんうん。もうええわ!
「先輩。」
「っ財前…!」
財前…もしかして、お前ここまで冷たくしたんはツン、て奴なん?この頃お前のファンがしきりに病気みたいに呟いとる、ツンドラってやつか?そうなんか?でもツンドラってどこにもいい要素ないで。
「ロッカー開けますわ。」
「うぶぉふぇっ「失礼しまsって何でそこにおるんですか。」
「さっきからずっと居ったわあああ!おまっ眼科行け!」
・・・ひどない?なあなあなあ、酷ない?そや、千歳はどこ行ったんや、あと健坊もや…。
「健ちゃんはオサムちゃんに呼ばれとったでえ〜」
「千歳はそもそも今日来とらんし。」
あかん。四天宝寺の良心が居らんなんて……!はよ健坊は戻ってきい…!
っああもうっほんま誰でもええ!誰か俺をっ俺をいい加減っ
「っ祝ってくれや!ほんま切実にィ!ほんまァァ!!」
ずしゃあああという摩擦音と共に部室の床に、隙間から脱出と同時に土下座をスピードスターといわれる速さで「きもいっすわ」そんな!
「・・・・・・ワイ誕生日祝ってもらうんに土下座する奴初めて見たわ!ほんまごっつオモロイなあ謙也は!」
「褒めてん?それ・・・。」
明らかに拗ねてますな態度でもってしゃがみこんで、「の」の字を床に書いてみる。ベッタベタやないか。そんな俺に金ちゃんが(既に着替え終わってる。むなしい。)俺の頭をぽこぽこ叩きながら笑う。ほんま褒めてんのかしらんこの子・・・。
「そやそや、オモロイんやからええのええの。」
「いや自分の場合面白がってる言うんやで、それ。」
「あら?」
「とぼけんなや。つか白石のくせに女々しいわボケェ。」
これまた既にジャージに着替え終わった白石が携帯を打ちながら言う。てか携帯見ながらとかっ・・・もうええよ・・・もう・・・!
「てか、ちゃんと俺メールしたやないか。」
「そ〜よぉ〜ウチだってしたやなぁい〜?おめでためぇる!」
「おめでたちゃうわ。それ別な意味になるっちゅーねん。」
「先輩むっつり。」
「財前黙れぇいっいい加減お前黙れやァ!」
「サーセンwww」
明らかに今なんか生えてたで。刈ったろか・・・って、あ?
(凄まじい力で)掴まれる俺の頭。(これまた凄まじい力で)回される首。
凄まじく軋む俺の骨。
「あ゛ああああ゛あ!!!!!」
「送ってやったやんか・・・?なあ・・・?パーフェクトに計算されて送られてきたやろ・・・?」
な・・・?
なんてことや!!!俺の頭をわし掴んで自分の方に向かせたっちゅーのに自分はというと携帯の画面にお熱やと!?白石ィお前ええかげアイタッアイタアアアアア゛
「いっあああ完璧やった…!ほんま一分いや一秒たりとも正確にジャストで16日と17日の日付変わった瞬間にメールきましたああありがとうございますうう」
「よし。」
「(なにが良しやねアイタアア)お前はようやった…ようやったわ……!彼女のはずのなまえよりもパーフェクトなタイミングやった…」
……シン、と静まる部室。憐れみの眼差し、ああかなしいかな。
「てか何で罵られたんすか。」
「「「(とうとう聞いた…!)」」」
とうとう聞いてくれたんや……やっぱ財前はツンドラやなんかじゃあっなかったんや…!
「そっそやなあ?なまえちゃんから電話してきて罵倒っちゅー展開はなんぼなんでもありえんへんよねえ?」
首を傾げる小春が言うたことは確かや。つまりはまあ、なまえから電話してきたわけやのうてな、あん時は俺から電話したんや。
「なんでや。」
「もしや誕生日になったんに、彼女からなんぼ待っても祝いのメールも電話もこんかったから〜とかかいなァ?」
「なんぼ先輩でもそりゃないっすわ。」
………。
「謙也ぁ!何固まっとるん〜?」
二度目の沈黙。部室に金太郎の声がやたらと響く。
「え、ほんま?」
「…ご名答やなぁユウジぃ。」
んなアホな。って誰言うたん。俺が一番言いたいわ!
どんだけわくわくして今日待っとったん思うてん!?なまえからのメールなり電話なり待っとったのに来るのは野郎からの着信ばっかやでえ?ほんま泣くわ!いや白石普通に嬉しかったでメールほんまありがとうな、ボソッとリア充爆発せえとか言うのやめてん!
「んで、意を決して電話かけてみれば出てきた彼女には罵倒された、っちゅーわけねえ〜?」
「でもあのマネージャーが彼氏である先輩の誕生日忘れるとか想像できんすわ」
「ハァ〜、踏んだり蹴ったりってこういうこと言うんのねえ〜」
しみじみと溜め息ついてそう言う小春はユウジをまさに踏んだり蹴ったりしている最中ってユウジ白目剥いてん大丈夫か…?
むしろ俺が溜め息つきたいわあ。
ハァとひとつ溜め息つけば、肩を叩かれる。誰や、と振り向き様にフラッシュが焚かれて、アカン今絶対死んだ魚の目ぇしよったでえ俺!って何、人の顔勝手に写メって!おいお前か白石ィ!
「そないな顔ばっかしてっと来るはずの幸せも来なくなってしまうで?」
携帯からやっと顔上げた思うたら…やたらにっこにこして、何やそのめっさ機嫌よさそうな気持ち悪いくらいにパーフェクトな笑顔は……自分相当気味悪いで…。
こちとらせっかくの男前顔が台無しになってるとこや言うのに…!って真顔やめんかい!ホンマむかつくやっちゃなあ!…とは言わんけど。
「つかさっきから部長はこんな朝っぱらから誰とメールしてんのです?」
「ああ。財前も知っとる奴やでえ?これ見い。」
「………なんすか、これ。」
「…さあ。なんなんやろなあ。」
「このメール全部謙也さんに送った方が良いんとちゃいます?」
財前と白石がなんや話しとる内に金ちゃんや師範達が部室から出て行きおった。そろそろいい加減俺も着替えなアカンなあ……。
「「おっ?」」
何や二人して声揃おて…。
学ランの上着脱いで、ズボン脱ごうとしたところで、背中に温もりと衝撃。えっ、あっちょっ先輩、なんて珍しく慌てるような動揺した財前の声に、わかっとる、わかってるんや……!と心の中で激しく頷く。アカン。下がる下がるさがる・・・!
「謙也・・・!」
「な、なんや?」
ぎゅっと力がこもるのは俺の腹の前に回される華奢な腕。相変わらず細いなあ、なんて思いながら、冷や汗をかく。
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