期待なんか



どこかで笑い声が聞こえる。

机の冷たさを頬に感じながら、
俺はそれに突っ伏す。
午後六時。
部活に入ってるわけでもない帰宅部の俺は
さて何故暗い教室にひとりでいるんでしょうか。
誰も答えてはくれないその問いへの答えを知っているのはやっぱり俺なんだろう。


◆◇◆



「おい、なまえ?」

「あ・・・?」

「何ボーっとしてるんや。一緒に帰るんやろ?」

終礼が終わって何も考えずにただボーっと教科書を眺めてたら、
光がカバンを肩に引っ掛けて
俺の方へやってきた。
光の部活が無い時はいつも俺と一緒に帰るから
今日もそれが当然のように
やっぱり光は一緒に帰ろと言ってくる。

でも、何だか今日は。

「あー・・・わりぃ。今日一緒に帰れない。」

「は?」

何を言ってるんだとばかりに眉をひそめる光。
何だか面白かったから、
俺より少しデカいお前に合わせて
少し背伸びをして
お前の眉間をえいえいと突いてみる。
するともっと眉をひそめて
やめろや、と俺の手を掴んだ。

「帰れないって、何かあんの?
 ・・・まさか呼び出しくらったりしたん?」

「あー・・・まぁ、うん。
 面目ない。ちょっとこの前の試験のことでね。」

「ふーん。・・・したらしゃーないわなぁ。待つ?」

「いや、そんなの悪いし。先帰ってて。
 ホントすまん。」


そか。
一言呟いて、ほな頑張ってー?と言って
ひらりと教室から出て行く。
前を向いたまま俺に手を振る、
そんな仕草がなんだかかっこよくて
ズルいなぁと思う。


本当は

先生からの呼び出しなんかないんだ。
試験についてとか別になんもない。

ただ、なんか今日は帰りたくない。

光と一緒に帰りたくないのか
学校から帰りたくないのか
家に帰りたくないのか

どれも当てはまらなくて
自分でもよく分からなかったけれど。

帰宅していくクラスメイトを眺めながら
一人ぼーっと何かを考えてた。
学校中を包む賑やかな雑音が
遠のいてく。


◇◆◇

はぁ。
何度目かも分からない溜め息をついたら、
机につっぷしていた顔をあげて教室を眺めた。
いつも授業を受けて光と話してる
いつもの教室なのに
いつもみたいじゃない。
俺以外に誰もいない教室は夕日が差し込んで
赤く染まってる。
何だかこの世じゃないみたいに変に冷たい気がした。

結局呼び出しもされてないし部活もなにもない俺は
光と一緒に帰るのも断って
ひとり、またひとりと教室を出て行くクラスメイトを眺めて
最後の一人になってまで

何がしたかったんだろう。

ただ時間だけが過ぎて
明るかった空も夜にだんだん近づいて
教室も暗くなっていく。

それが何だか怖くて。
別に暗いところは嫌いじゃないけど
明るかったのがだんだん暗くなっていく
この瞬間が無性に怖くて。
どうしようどうしよう。とわけもわからずに思った。
時間は止まらないし止めれもしない。
誰かが言ったような言葉が頭に浮かんで
俺が嫌だったのは
此処から帰ったら
明日がまた来てしまうことだったんじゃないかと何となく気付いた。

何だソレ。
思春期ですか。そーですか。
一人で呆れて一人で納得した。

それでも怖いものは怖くて
どんどん暗くなっていく教室で
携帯に俺を手を伸ばした。
携帯を弄りながらふと思った。

今、光は家にいるのか?

そりゃ俺が先に帰れといったんだから当たり前だろうな。
ああでも寄り道してるかも。
何してるんだろう。
本屋にいる?雑誌読んでるかな。
CDショップにいる?何か聴いてるかも。
もしかしたらアクセ買いに行ってるかもな。
ピアスをしてる光はかっこいい。


何故か光のことを考えてたら
無性に光の声が聴きたくなって。

財前 光

アドレス帳を開いてコールする。


けど。

1コールで切った。
自分から電話しといて何なんだよって感じだよな。
いやだって、何か今電話するとかおかしくないか?
つかなんで俺電話したの?

あまりにも一連の動作が衝動的だったから
今考えると頭がぐちゃぐちゃになった。

「っ!」

ヴーッヴーッとマナーモードにしてる俺の携帯が鳴り出して
びくっと肩が跳ねる。
通知には

財前 光

と点滅する文字。

あ、かけなおしたのか。
どうしよう・・・・。
と少し迷う。

迷った末に。

「はい。」

俺は電話に出た。

廊下でぺたんぺたんと
誰か生徒が上履きのかかとを踏んで歩く音がする。
部活帰りの奴か?
だんだん足音が近づいてきて、俺のクラスの奴だろうかとふと考える。

「・・・もしもし?」

ぺたぺた音を鳴らしていた足音が止まった。
はてどうしたものか。

そして電話に出たのはいいけど
光の返事がない。
しまった。
1コールで切ったこと、怒ってんのかコイツ。

「光!ごめ」

ん。
と言おうとしたら

ガラガラ

っと教室のドアが開く音がして。


「何勝手にかけて勝手に切ってるんや。なまえのド阿呆。」

光の悪態が
耳元からも前方からも聞こえて、




何だかわからないけど
きっと俺は泣きそうな笑顔をつくって

「ごめん。」

って笑ったんだろうな。


光は心底呆れた風に

「帰ろか。」

って俺に向かって言うから。

軽いカバンを手にぶらさげて
俺はお前の方へまっすぐ駆けていくよ。

俺をおいて先でとぺたりぺたりと歩く光に追いついたら
背にタックルをかまして笑うんだ。

「この嘘吐き。」

ってどつかれたら

「光大好きだー!」

って思いっきり抱きついたろ。




こいつと一緒に笑ってるうちは
何だかなにもかもどーでもいいんじゃないかって思えてくるんだから
さっきまでの俺の時間ってなんだったんだろうなー。



「サンキュー」

小声で呟いた声に返されるのは


「ドウイタシマシテ?」

だった。


・・・・・・生意気な。



期待なんか
全然しちゃいない。





これは冬になると書き直したくなるブツなんだろうか。
・・・ちょっと情緒不安定主。大体冬になると私自身情緒不安定になるのかもしれない。
財前が掴めきれてないからってセリフ少な目にしたらもう逆に財前が誰状態。
やっぱり待ってやるよーって感じで校門で待ってたのに
来ないんやけど。っていう空しさがいいとおもう。
(2010/12/19→2011/01/14→2012/01/14).

[ 4/27 ]

[prev] [next]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -