「コーヒーとココアどっちがいい?」
「・・・・・・ココア。」
「だと思ったよ。」

クスクスと笑いながらキッチンへ向かうフィディオに私はしかめっ面。
私が苦いのはキライだって彼は知ってるはずなのに、わざわざ聞いてくるあたりが少し憎たらしい。どうせ、また甘いものしか飲めないなんてお子様だねなまえは、とか言いたいのでしょう。飲めないんじゃなくてキライなだけなのに。そこらへんちゃんと理解してくれてないと困る。

ぼすん、と背後のソファにうつぶせに倒れこむ。フィディオの家のソファはすごくふかふかしていて気持ちいい。私の家のソファと違って、ここで寝てもたぶん体が痛くなることはないんじゃないかなあ。いいなあ、こんなふかふかのソファで寝たら気持ちいいだろうな。何だかフィディオが飲み物作ってる間に寝ちゃいそうだ。

ごろん、と寝返りを打つように仰向けになって、瞑りかけていた目を開けると丁度キッチンの方から出てきたフィディオとばちりと目が合った。思わずがばっと体を起こす。ぐきっと変なところから音がしたような気もするけど、気のせいでしょう。驚いたような顔をしているフィディオ。

「・・・・・・もうできたの?」

ココアまだ?なんてソファの上で体育座りをしながら聞いてみれば、今コーヒーも淹れてるから、と答えるフィディオの顔は苦笑気味。何か文句でもあるの?

「いや、何だか子どもみたいだと思って。」
「あっそ。言うと思った。」

どうせ私はお子様ですよ、ふかふかのソファではしゃいじゃうようなね。
ブツブツと言いながらソファに再び沈み込む。ああ気持ち良い。

「眠いの?もしかして。」
「少し。」

近くにフィディオが寄ってくる気配。ソファがフィディオが座ったせいで、また沈み込む。中途半端に寝転がる私の頭を撫でる彼の手が何だかくすぐったい。フィディオは私の髪を指にからませながらくるくると遊ぶ。

「ココア飲まないの?」
「・・・飲んでから寝たい。」
「それじゃ、今持ってくるよ。」

寝ないようにね。と言ってソファから離れる。離れたぬくもりが寂しい。
私はまた、寝返りを打ってみる。寂しい。

「なまえー、ちゃんと起きてる?」

むくり、と起き上がってみるとキッチンからコーヒーとココアが入ったカップを両手に一つずつ持つ彼が来た。湯気が薄くカップの上に漂ってて、ちょっと熱そう。

「髪、乱れてるよ。」

テーブルの上に二つマグカップを丁寧に置いてからフィディオは私の頭に手を伸ばす。その手を、掴んでソファに引っ張る。フィディオからしたら私の引っ張る力は全然たいした力じゃないからバランスを崩して倒れこむなんてことはなかったのだけれど、少し引っ張ると大人しく私の隣に来てくれた。

「髪くらい自分でなおせるよ。」

子ども扱いしてるでしょ、とフィディオに寄りかかって不満を言う。髪を直そうと鏡をポケットから出すと、ひょいとフィディオに奪われる。

「子ども扱いじゃないよ。ただ、甘やかしたいだけ。」

恋人扱いだと思えばいいよ、と言いながら私の鏡をテーブルに置く。伏せられたまぶたから覗いた睫毛が長くて、色っぽい。

「あっそ。」

言い様のない恥ずかしさをごまかすように、ココアの入ったカップに手をのばした。カップはあったかかい。手のひらに温もりが沁みる。
ちらり、と盗み見た、微笑みながら私の髪を梳くフィディオの顔が優しすぎたから思わず顔を逸らした。

コーヒーを啜るフィディオ。ココアを飲む私。
静かな空間。

「・・・コーヒー美味しい?」

火照りがおさまった顔でフィディオの方を向いて尋ねてみる。どうして苦いものをわざわざ飲むのか私的にはあまり理解できないのだけれども。

「まあね。なまえも飲んでみる?」
「いらない。」

意地悪に聞くフィディオはやっぱり少し意地悪な顔をしていた。
やっぱり私のこと子ども扱いしてるんじゃないの。

「別にコーヒー飲まなくても甘いココアが飲めればいいの。私は。」
「コーヒーは飲めないんじゃなくて飲まないんだっけ?」
「そうですー。」

クスクスと面白そうに笑うフィディオ。飲めないわけじゃない。本当です。
そうだね、と頭を撫でるフィディオの手をぺしっと叩いてみる。そういうところが子どもっぽいのかもよ?と今度は反撃されて少し黙る。フィディオは未だ意地悪な顔のままだ。

「でも、」

私の頭を撫でる手がするりと頬に添えられ、彼の目と私の目がばちりと合わされる。
意地悪な顔から変わって、とびきりの優しい微笑みでフィディオが言う。


「苦いものがあるからこそ甘いものが甘い、と思えるのかもよ?」

リップ音を響かせて、口に広がった苦いコーヒー味。
まあそうかもしれないけど、でもさ。
優しすぎる顔に何も言えなくなる私。赤面。


ココア+α の甘さ。


でもさ、これは甘すぎやしませんか?


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本当にな。これぞイタリアの力・・・・・・!
(20110611)

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