ねむい・・・。ねむいです。
ちょうど今日が終わり、明日が始まろうとしてるころ、つまるところ12時寸前。私は、レポート用紙を前に睡魔と戦っているところなのです。ああ・・・、やばいかも。意識とびそう・・・・・・。
へるぷ、みー。
課題が出たのは二ヶ月前。提出期限は明日。何がどうしてこうなったのか。別に深く考えなくたって分かること、全て自分のせい、つまるところ自業自得という奴なのです。今更考えたって仕方ないのだけど、どうして一ヶ月前の私は早いうちに課題を終わらせようとか思わなかったのか・・・・・・。過去の自分を恨んでみたりする。実に非生産的、ただの現実逃避じゃん。ああねむい・・・。
だんだんと目がしょぼしょぼしてきて、まぶたが重くなってきていることに気付いてはいるけど寝ることだけは絶対してはならないのだ。何故なら明日が課題の締め切りだからだ。提出期限を破れば点数が引かれて成績にも関わってくる。それは受験を控えてる学生としては致命的でしょう。あ、明日になっちゃった。12時越えしちゃったよー!わーい、やったねー!
・・・・・・しまった、完全に深夜のテンションだこれ。
何がやったねー!、だ。締め切りの日になったんだよねこれ。うわあ、やばい。
「もう寝たいよー・・・・・・。ねむい。マジ眠い。」
「寝ればいいではないか。」
「良くないから。ぜっぜん良くないから。」
・・・・・・あれ?まさか、この声は。
ボヤいた独り言にまさか返事があるとは思ってもみなかった。一瞬、肩を強張らせた私が恐る恐る後ろを振り向けば、やはりそこにいたのは彼であった。ドアに背を預け、腕を組む姿が妙に様になってるから少し羨ましい。まあ、いつも実年齢よりも年上に見られることが多いし、しょうがないかもしれないけど。ようするに大人っぽいのである。私とは違って。
「砂木沼さん、何でここにいるんですか。」
ノックくらいはしてください。私、一応女の子です。
知ってました?と椅子を回転させて、少し離れたところにいる彼に問う。夜だからか、いつも後ろで束ねられているしなやかな黒髪が、今はそのまま下ろされている。思ってたより長いんですね。
一方、彼のほうはというと眉を顰めたまま黙ってる。と思いきや、口を開いた。
「なまえの部屋に入る前にノックはしたぞ。」
「え、聞こえませんでした。」
つか、ノックしたからって了承なしに入ってきたんですか。いや、ノックに気付かなかったことには謝りますけど。そして、女の子うんぬんに対してのツッコミはしてくれないんですね。ひどいです、砂木沼さん。フォローするとか貶すとか何でもいいんで反応がほしかったです。
「明かりがドアから漏れていたから、まだ起きて居るのかと気になってな。」
あまり夜更かしすると瞳子姉さんにも怒られるぞ、と言う砂木沼さん。
姉さんに怒られるのはやだなあ。怒ると姉さん恐いし。
「・・・・・・・こんなに夜遅くまで勉強か?」
「ええ、まあ・・・・・・。」
締め切りが今日のレポートを書いてます、なんて言えないです。はい。
少し目を逸らして答えると、砂木沼さんがドアから離れてこちらへ歩いてきた。一体何なんですか・・・・・・。眠気まじりにぼんやりとしつつ、思わず声をかける。
「・・・・・・何か?」
椅子に座る私の横に来て机の上を眺める砂木沼さん。机の上には、広げられた本と書きかけのレポート用紙。何か面白いものでもありましたか。砂木沼さんを見上げて聞いて見る。が、発せられた自分の声は何だかふにゃふにゃしていた。砂木沼さんの突然の訪問に覚醒しかけた私の脳みそでしたが、どうやらだんだん意識が朦朧としてきたようです。喋ろうにも舌が上手く回らない。しかも、またまぶたが重く感じられてきて、結構キツい。ああしまった。ついに目が閉じられる。薄くなる意識。かくん、と揺れる体。
「おい。」
低い声が上から降ってくる、と同時に堅い何かにぶつかったような衝撃。一瞬にして戻る意識。私の目がわずかに開く。
「なまえ。起きろ。」
はっ、とその声にがばりと体を起こす。肩に暖かい手の感触を感じてパッチリと目を完全に開けば、目の前に砂木沼さんの顔があって、
「うわあああ。」
「・・・・・・自分から倒れてきてその反応はないんじゃないか?」
「すいません、意識とびました。いやホントすいません。」
口先で素早く謝ると同時に身を引く、さっきまで見上げていたはずの砂木沼さんの顔が何故私の目の前にあったんだろう、とぼーっと考えていると横から溜め息が聞こえてくる。呆れた、といわんばかりの顔で砂木沼さんは言った。
「もう寝ろ。」
「むりです。」
即答すれば、もう一度聞こえてくる溜め息。砂木沼さんはその場に座り込んだ。ああそっか、さっきあんなに距離が近かったのは横に倒れてきた私を支えてくれたからか。なるほど。あ。
「大体そんな状態で、」
「砂木沼さん。」
「・・・・・・なんだ。」
説教めいた口調で何かを言おうとした(大体何を言おうとしたのかは予測できるけど、)砂木沼さんの声を遮って彼の名を呼ぶ。眉を少し顰めたけれども、返事をしてくれた。全くこの人は甘いなあ、と心の中で思ってみたりする。
「ぶつかってすいません。」
たぶんさっき支えてくれる前に砂木沼さんの丁度胸元あたりにぶつかってしまっただろうから。ごめんなさい、と言えば何を言われたのか分からなかったのか一瞬目を見開かれた。
「別に、気にすることはない。っ、それよりもお前は早く寝るべきだ。」
少し目元を緩めて言われたものだから何だか嬉しいような、ちょっと困ってしまう。続けられて言われた言葉はやっぱり少し責めているような説教じみているような口調で、えー・・・と不満を口に出してみる。すると、くしゃっと髪の毛をかき回されて、「なまえ。」と少し堅めの声で咎められる。それでもどこか優しくて。
「だって、」
「明日が締め切りだから寝てられない、だとか言いたいのだろう。」
反抗しようとしても、どうせなまえのことだから、などと言われてしまえば口を閉じる他ないではないか。ああもう困った。
「大体して何故今まで課題に手をつけなかったのだ。」
「別に深い理由はないです・・・・・・。」
「面倒くさかった、だけ。か?」
わかってるなら聞かなくたっていいじゃなですか。酷いですよ、砂木沼さん。目でそう訴えれば、目を細められて無防備な私の額がベシィッと叩かれる。痛い。
涙目ながら砂木沼さんを見上げれば軽く笑われる。なんとなしに顔が熱くなった。
「でも、明日が締め切りだから今日やんなきゃ。」
「今までやらなかったなまえが悪い。」
「知ってますー。それでも仕上げなきゃ成績に関わってくるから・・・・・・。」
「・・・・・・それならなおさら計画的にやるべきだったんじゃないか?」
「それ以上私を苛めたら泣きますよ。私が。」
というより、もはや半ば涙目であるのですけど。知るか。どうしてくれるんですか。自業自得だ。
不毛なやり取りをしてみるも、砂木沼さんの言うことが正しいことは一目瞭然というやつで。
「・・・・・・どうしても、仕上げなければないなら朝早くに起きて仕上げろ。」
こんな夜遅くにやってもどうせはかどらないだろう、と眉を顰めて言う砂木沼さん。
「私、朝苦手です。」
朝に起きて勉強しようとしてできたことがありません、と空笑い気味に言う私。
本日二度目の額への衝撃。砂木沼さんは溜め息をついて、私は額を押さえて涙目になる。なんだって私がこんな目にあわねばならない。
「あ。」
「今度は何だ。」
「砂木沼さんが私を朝早くに起こしにきてくれたら起きます絶対に。」
「そうか。」
「まあ、やってくれないですよね。普通に考えて。」
「ああ。」
「・・・・・・ね。」
「ああ。」
冗談抜きで真顔で提案をしてみた。にも関わらず、腕を組んで目を瞑ったまま淡々と頷く砂木沼さん。いやいやいや、違うでしょう。ええ。
「砂木沼さん!」
「・・・・・・。・・・・・・、何だ。」
「そこは、『それぐらいならやってやる』じゃないんですか!そして私が『まあ、やってくれないですよね。普通に考えt・・・え?ちょ、え?今何て・・・?』とか言うっていうのがセオリーではないんですか!ちょっと!砂木沼さん!酷いです!」
「・・・・・・もうお前は寝ろ。」
これが大人の余裕という奴なのか。砂木沼さんは私の記憶違いでなければ一つ違いのはずなのに・・・!
ほら、と学習机の電気スタンドのスイッチを消されてしまえばレポートの続きをやろうなどというやる気なんてなくなってしまう。むむ・・・。
しょうがない。
「わかった、寝ます・・・・・・。」
できなかったらできなかったで、もう何かいいような気がしてきた。はぁ。ひとつ溜め息をついてベッドに向かう。
布団にもぐりこめば、ぽふ、と頭に砂木沼さんの手が乗せられる。暖かい手のひらが私の頭を撫でる。
「・・・・・・気が向いたら明日の朝、起こしにきてやる。」
おやすみ。
口元にゆるく弧を描いた砂木沼さんが囁く。やがてふわりと長い黒髪を揺らして、部屋の電気を消すと小さく音をたててドアの外へ出て行った。
・・・・・・ああもう、どうしよう。
ベッドの上でぐるっと寝返りをうつ。
起きるどころか、これじゃあ寝れないかもしれない。
へるぷ、みー。
ぜーんぶ、彼のせいだと思うの。
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おひさま園にて。課題〆切前日って大体こんな感じかと。
(20110607)
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[mokuji]
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