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  • 挫けるときだってあるけど 1/2

もう夏は過ぎたのだろう、たまにふく風が生暖かく素肌に通る。
それでもまだ半袖で過ごさないと、日中の暑さはしのげない。
朝と夜の気温差にまだしばらく耐えていかなければならないようだ。

「おはようございます」
「おはよう、今日も一日よろしく」

オフィスの入り口で同じ会社の女子社員とすれ違った。
軽く挨拶を交わし、自分の席へと進むと鞄を一番下の大きい引き出しに突っ込み
イスにもたれかかってため息をついた。

今日もまた一日が始まる。
月曜日の朝はいつも憂鬱だ。
土日で休みが取れるはずが、どうしても休みにしか出来ない事で予定を入れてしまい
月曜日の朝はいつも遊び疲れと眠気に襲われていた。

「七海、昨日はありがとねー」
同期の友人、園田が明るく声をかけてきた。
昨日、園田とその友人の集まりに参加し、遅くまで飲んでいたというのに
どうしてこうも同じ年で全然違うのだろう。

園田は昨日の事を全く引きずっている様子もなく、顔色は良い上に
声にも張りがある。

「元気だね…」
「そりゃ、若さだけが取り得でしょ?お互い」
「あたしは憂鬱だよ」

入社して、2年、お互い「まだ」がつくのか分からないが24歳だった。
大学を卒業して新入社員としてこの会社に入ってからすぐに意気投合して
それ以来、お昼休みや休日は彼女と過ごす事が多い。
彼女はとても明るく、そして気さくな人間だから、自分以外の人ともよく話す。
対照的にあたしは来るもの拒まずな所があるが、自分から声をかける事がめったにない為中々人脈は広がらない。
それを彼女も知っているから、よく色んな集まりに自分を呼んでくれる。
悪い気はしない、彼女の性格のおかげなのか、彼女に集まる人たちもとても気さくな人が多く
一緒にいて楽しめるし、安心して話せる。
ただ、年々体力が低下しているような気がするのは、勘違いだけではないはず。

「ちょっと、まだ24だよ?まだまだ若いんだからそんな疲れた顔しないの!」
「んーでもさすがに飲み会の次の日に出社は辛い…」
「体力ないなぁ、ちゃんと恋してる?」
「…は?」

何で体力低下の話から恋の話になるのか検討もつかなかった。
一体どんな関係があるのだろう。

「好きな人がいるとさ、こう、いつでも元気でいられるじゃない?」

当たり前のように、優しい微笑みをかけながら聞かれてしまった。
そんな、10代じゃあるまいし、そんな事を言われても…と戸惑っていると
後ろから「朝からなんつー会話してんだよ」と声が聞こえてきた。

イスにもたれたままゆっくり後ろを振り返ると、同じく同期の如月が立っていた。
「あ、おはよー」挨拶を交わすと、園田が怒った口調で如月に声をかけた。
「おはよ、別に変な会話じゃないでしょ?」
「24の女が恋だのなんだの、朝から話すか?普通」
「確かに…如月の言う通りだわ」
「もう二人とも感覚が変!」

「変じゃない」
「変じゃないだろ」

思わず如月と言葉が重なった。

「キレイにはもらないで」

それも彼女は気に入らないのか、更に膨れてしまった。
こうなってしまうと彼女はどんどん説教モードになってしまう。
女は恋をしてきれいになるとか、恋人がいてこそ仕事が潤うとか、そういった話を
延々と出来る、何というか、可愛い女性だ。
別にそれが特別嫌な訳じゃない。
彼女は色恋ものに興味が強いと思いきや、仕事にいったんスイッチが入ると
処理速度は会社でも1、2を争うし、決断力も的確。
仕事仲間としても尊敬できる存在。
だから他の女子社員のように「男性社員にいかに可愛く見られるか」ばかりに気を取られて
化粧直しばかりしている女子社員よりはうんと好感が持てる。
だからこそ、彼女と2年も一緒にいられる。
それを加味しても、さすがに月曜の朝の憂鬱な気分の時に彼女の説教モードを全部聞いていられるほどの元気も時間も無かった。


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