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  • お前、彼氏いないだろ? 1/2

埼玉県、大宮駅。
一応この辺ではオフィスが立ち並んでいる土地。
あたしはその中で一番大きなビルの、とある会社で営業事務をしている。
営業事務といっても、内の会社が特別なのか、はたまた常識なのかは分からないが、
まず最初にコンビを組まされ、その相手と一緒に営業に同行。
帰ってきたら、必要な書類を事務一人が作成し、営業の人は電話で営業をする。
そんな毎日を繰り返すから、誰と組まされるのかがすごく重要になってくる。

なのに、あたしはくじ運が悪かった。
というより、昔から悪い。
席替えは必ず苦手な男子の隣になるし、面接は必ず一番最後。
何となく習慣で買ってしまう宝くじだって、年2回連番、バラを5セットずつ買ってるのに
未だに100円すら当たった事がない。

だから、かもしれないが、とにかくあたしが組んだ営業の男は最悪だった。
周りの女子社員は「えー羨ましい」と声を上げた。
あたしも最初はそうだった。確かに、その男は顔が良かった。
しかも笑うとえくぼが見えて、年は同じはずなのに、高校生でも通じるんじゃないかと思うくらいさわやかだった。
話し方もソフトで女子社員の中でも人気。
だから、少しでもそんな人と仕事が出来るかと思うと、他の社員への優越感や期待感の方が大きかった。

なのに、この男如月仁は二人きりになると態度が豹変した。
初めてまともに会話をした日の開口一番がこれだ。

「お前、彼氏いないだろ?」

は?お前?いつからあたしはあんたにお前呼ばわりされるように関係になった?
お前なんて自分の男にすら言わせないのに、何ゆえあんたがそうあたしを呼ぶ?

不快感でいっぱいだった。
何だ、この男は、この変わりぶりは。
猫をかぶっていたのか、なら最初からかぶっていてくれ。
何もあたしの前で脱ぎ捨てなくてもいいだろう。

「…次の営業先はすぐそこのオフィスです」

色々言いたい事はあったが、やめた。
これで逆上したらまるで高校生だ。子供みたいな事はしたくなかった。
仕事さえきちんと全うできればそれでいい、それで給料がもらえるなら。
そう、開き直っていた。

「ふーん、ムシするんだ、度胸はいいんだね」

度胸は、って何?
は、って、度胸しかないって言いたい訳?
確かに、見た目も標準、仕事速度も標準、標準世界を渡り歩いてきたあたしにとっては
それはごく当然の評価かもしれないけど、何でまともに話した事もない相手にこんな言われ方をしなければいけないんだ。





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