text
- 正直に、好きって言えよC 1/3
「相川さん、飲んでる?」
「あ、はい、飲んでますよ」
夜、お誕生日会と聞いていたけど、結局は居酒屋での飲み会。
たぶん、誕生日っていう口実に集まりたかっただけ、みたいな感じ。
営業課の人たちが集まって、取引先のグチや上司の事について話をしてる。
あたしはそんな会話に入れず、ただちびちびとお酒を口にするだけだった。
杉本さんは何故か最初にお店に入った時からあたしの隣に座り、それを見た如月が反対側に座り…はさまれる形になっている。
(…なぜ?)
不思議に思ったけど、それよりもあまりお酒を飲まないようにする事ばかり考えていた。
飲みすぎてまたあんな醜態を見せる訳にもいかないし、何より明日も出勤だと思うと飲みすぎたくない。
左腕につけている腕時計をちらっと見ると、もう9時をさしていた。
(明日も早いのに…)
いい加減無言で飲むのもしんどくなってきたし、お誕生日おめでとうと当人にちゃんと言えたし、そろそろ申し訳ないけどお先に失礼させて頂こう。
そう思って、グラスに入っていたカクテルを一気のみし、立ち上がるとすかさず杉本さんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「いえ、明日も早いのでそろそろ…」
「あ、じゃ途中まで送っていくよ」
「いえ、駅すぐそこですから」
「いいからいいから、待ってて」
人の話も聞かずに今日の幹事の所へ向かって何やら話をしているようだ。
(強引な人…)
まぁ、如月には負けるけど、と思いちらっと下を見ると、如月もあたしをじっと見つめていて、どきっとした。
「なんだよ」
「…べつに」
機嫌悪そう。
「お待たせ、行こうか」
「あの、本当にあたし大丈夫ですから」
「いいの、ほら、行こう」
腕をつかまれてしまった。
その瞬間、ぞくっと背筋が凍った。
何だろう、何だかすごく怖い。腕をつかまれただけなのに、何故こんなに怖いんだろう。
杉本さんは気さくな人だし、優しい口調だし、さっきまで話していても怖いなんて思った事は一度もないのに…
急に腕をつかまれたから?ううん、それだけじゃない。
言いようのない不安感があたしを襲い、まるで助けを求めるかのように如月の方に目を向けたが、如月は気づいていないようだった。
そのまま引きづられるように店を出た。
「あの、腕、離して下さい!」
「え、いいじゃん、駅までだからさ」
「でも、あの!」
酔っているんだろうか、全然人の話を聞いてくれない。
「俺さ、実は相川さんの事ずっと狙ってたんだよね?」
「え?」
「仲取り持ってくれって如月に頼んでも、自分で何とかしろ、とか言われちゃうからさ」
「…如月が?」
足を止めた。
「自分で何とかしろ」それってつまり俺は関係ないって事でしょ?
キスしたのに?あたしに突然キスしたのに?だからキスした理由をはぐらかしたの?
好きじゃないから?からかってみたかっただけだから?
だから…
「ちょ、相川さん!どうしたの!?」
「…え?」
言われて初めて自分が泣いている事が分かった。
あぁ、そうか、あたし泣いてるんだ。
如月があたしの事好きじゃないって分かって、泣いてるんだ。
[*prev] [next#]