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  • 挫けるときだってあるけど 2/2

「ちょっと、何とかしてよ」
「俺?いや、そこはお前が…」

如月に助け舟を出してもらおうとしたが、顔をゆがめられてしまった。
そして、少し考え込んでいるような様子だったが、突然何かをひらめいたように
入り口を指差して、園田に声をかけた。

「お、今日から中途入社する奴が来た」
「え?噂のイケメン?」

入り口付近に緊張した面持ちで立っている彼を見つけると、声のトーンを1つ上げて
「緊張してるー、ちょっと挨拶してこよっと」とウキウキした様子でその場を離れていった。

彼女が立ち去ってから、二人して同時にため息をついてしまった。
「元気だな」
「元気だね」
「お前にもあの元気さを分けてもらいたいよ」
「ちょっと、どうしてあんたがそういう事言うわけ?」
「お、言うか?先週まで落ち込んでたくせに」
「…う」
「もうあたし会社に申し訳ないーって泣きそうな顔して喫煙所にいたくせに」
「…どうしてぶりかえすかな」

そう、先週あたしは2年間働いて初めて大きなミスをした。
取引先の会社との面談日を間違えて、こちらがすっぽかす事態を招いてしまったのだ。
毎日サーバーにアップされている予定表は欠かさずチェックしていたのに
予定を入力する時は何度も確認を取ったのに、先方からうちの会社に抗議の電話がかかってしまった。

「約束の時間になってもこないなんて、仕事を何だと思ってるんだ」

情けなかった、恥ずかしかった。
その場で泣いてしまいたかった。
それ程ショックだったが、上司に恵まれているのか「失敗したって、次しなければいいんだ」と怒られる事は無かった。
でも、たとえ2年でも毎日真面目に働いてきた自分としては、こんなミスをするなんて自分で自分が許せなかった。

休憩中、喫煙所でタバコを吸いながら、思わず如月にグチをこぼした。
彼もあたしを責めなかった、だから余計に辛かった。
誰でもいいから責めてほしかった、何やってるんだと、怒られないからこそ
やりきれない思いが止められなかった。

「ま、結局相手が勘違いしてたって事で謝ってきたからいいじゃん」
「そりゃそうだけど、あの時はショックだったんだから」

そう、相手の会社が間違えて登録していて、それがその人の部下の証言で分かって
「本当に申し訳なかった」と謝罪の電話があたし宛てにあった。
だけどその時にもう落ち込みも深かった為、どうしたらいいのか分からなかった。

「お前は、いつだって一生懸命やってるから」

突然如月に小さな声で呟かれた。
聞き間違いかと思い、「え?」と声をかけると、彼は少し顔を赤くしてあたしを見つめた。

「そういう所、俺、応援してるしな」
「…如月……」

思わずあたしも顔が赤くなってしまう。
二人の間に不思議な空気が流れる。
照れくさい、というか、はがゆいというか、まるで高校生の時好きな人と二人きりになった時のような
恥ずかしい気持ちになった。

「…今日、夜、飯でも食いに行くか?」
「…うん」

そう答えると、あたしの頭にぽんと一回優しく触れてから、彼は自分の席に戻っていった。
あたしは触れられた頭を思わず撫でてしまった。
大きな手と優しい温度が今でも余韻として体に残っている。
何だか、顔がにやけてしまいそうになった。

挫ける時だってあるけど



こんな月曜の始まりだって、あっていいよね


憂鬱な月曜日が、歓喜の月曜日に変わった瞬間だった。


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