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  • 私に何ができるだろう? 2/2

「な、なに?」

思わずどもってしまう。

「いや、あまりにタイムリーな話だったもんで」
「…どういう事?」

聞いてみると、彼がゆっくりと語りだした。
あの、一週間前の事件の事を。

つまるところ、相手先の社長令嬢が彼に一目ぼれをして、それを知った社長が
「娘と結婚を前提に付き合いをするなら契約をする」と言ってきたそうだ。
何て時代遅れな、そう突っ込みたくなったが、黙って話を聞いていた。
ずっとやんわり断ってきたが、あまりに熱心に言われる為「好きな人がいるので」と
はっきり断った所、社長が逆上した、という経緯だった。

「んな事言う人、今時いるんだと思ったけど、色んな人がいるんだよな、世の中」

そうぽつりと呟いた彼はとても疲れているように見えた。
あたしはその「好きな人がいる」が本当の事なのか、それともはっきり諦めてもらう為に
言った事なのかが気になって仕方なかった。
知りたい、すごく。
だって、彼の事が好きだから。
でも、それを聞いた所でどうなる話でもない、「自分かも」なんて図々しい。
だから、結局親身になって話を聞く同僚、として見てもらう為に真剣な眼差しで話を聞いた。
臆病者、だけど、この年になると、そんなに一直線に相手に思いをぶつけることなんて出来なくなっていた。
相手の様子を探る事ばかりしてしまう。
10代の頃はもっと純粋に気持ちを伝えていたのに、一体どうして変わってしまったんだろう。

「ごめん、変な事言って」
「ううん、全然、話して楽になるならいつでも言って」

そう言うと、彼が少し笑った。
「どうしたの?」聞いてみると、更に柔らかい笑顔をあたしに向けてくれた。

「いや、入社した頃の事思い出して、ほら、俺が入りたての頃書類のミスが多くてよく怒られてたじゃん?」
「そういえば…そうだね」
「で、いつも「相川を見習え!!」って怒られて、よく書類作成の事聞きにいったの覚えてる?」
「覚えてるよ…」

もちろん覚えてる。
あたしを名指ししてくれた上司にひっそりと心の中でお礼を言ったものだ。
書類作成について教える口実に、彼と二人で話す機会が増えたんだから。

「その時に、ちらっとグチを言ったら、同じ事言われたなーって、思い出した」
「そうだったね」
「あの時も、だいぶ救われた」

嬉しかった、そんな風に思ってもらえていたことに。
心臓が高鳴った、たぶん、顔も赤くなっていると思う。

勇気を出してみようか、好きと伝えるだけが恋じゃない。
彼の力になれるなら、いくらでもなりたかった。
それだけでも、幸せな事だ。

「あたしに、出来る事があったら、何でも言って」

我ながらか細い声で呟いた。
たばこの灰は落ちる、まるでスローモーションのように思えた。

目を見開いて驚いた顔をしている。
しまった、もっと軽い感じで言えば良かった。
こんな赤い顔で真剣にそんな事言ったら、「あなたが好きだから」って言ってるようなものだった。
でも言ったものはもう取り戻せない。
彼の返事をじっと待つしかなかった。

彼はそんな様子をじっと見つめ、呟いた。



じゃ、ずっと俺の隣にいてくれる?



(隣に今いるけど…)
(そうじゃなくて、一生って事)
(え、あ、も、もちろん!!)
(ふっ…そんなにどもらなくても)


キスを交わしたのはその3秒後の事。



end

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