重たく真っ白い大きな壁が通学路に居座るようになった頃、バスケ部の3年生は部活を引退した。

 細かい雪が舞っているのをぼんやり眺めながら学校までの道を歩いていると、後ろからばんっと背中を叩かれて驚いて転びそうになる。
「なにしょんぼり歩いてんだよ!」
「ふくちゃんっ、お、おはよう」
「ういーす」
「あ、岡村くんもおはよう」
 ふくちゃんの隣にいた大きな身体は大袈裟に揺れて左右をきょろきょろと視線が彷徨う。
「オマエだ、岡村。オマエに言ってんだよ」
「お、おう、そうか。お、おおおおはようっ」
「ドモりすぎだろ、こんなちんちくりんに緊張する必要ねぇぞ」
「ふくちゃん、ひどい……」
 不満そうに声を漏らしてはみるけれど、ほんとうはずっと部活が忙しくて顔もろくに合わせられなかったからちょっとでも会えて嬉しいという本音がほっぺたを勝手に緩めてしまいそうなので気をつけないといけなかった。

「岡村ちょっと先行ってろ、こいつに合わせて歩くと遅刻すっかもしんねえから」
「ええっ!?ワシだって女子と一緒に登校したいぞ」
 ふくちゃんがしっしっと追い払うように手を動かすと岡村くんは項垂れて先を歩いて行ってしまった。
「よかったの?」
「いーんだよ」
 ぶっきらぼうな物言いとは対照的に歩幅は優しい。
 時間はまだ早い。今日は日直だからと早めに家を出てきたから周りに人もあまりいない。遅刻なんてどれだけゆっくり歩けばしてしまうのかわからないぐらいに余裕はあった。
「手袋してねぇの?」
「この前片方なくしちゃって。新しいの買おうと思ってるんだけど」
「ふーん」
 擦り合わせていた両手の上にふくちゃんの左手が乗っかって、そのまま右手を取られる。
「ふくちゃんの手も冷たい」
「冬だからな」
 人の通りは少ないとはいえまったく無いわけじゃない。人目が気になってしまうわたしとは違ってふくちゃんは何も気にせず繋がれた手をぶらぶら揺らして歩く。二人の間にはらはら儚く雪が落ちていく。
「今度の休み、新しいの買いに行こうぜ。オレが買ってやるよ」
「えっ?ほんと?」
「あー……クリスマスなんもしてやれなかったからな、そんぐらいは」
「じゃあ、わたしもふくちゃんに何か買ってあげる」
「はあ?いいよ、べつに」
「やだ、買う。わたしも手袋買ってあげる、お揃いにしようよ」
「ぜってーやだ」
「なんでー?」
「お揃いなんてできるかそんな恥ずいの」
「手つなぐのは恥ずかしくないくせに、へんなの」
「あーはいはい、じゃあ離しますけど?」
「わーうそうそ、ごめんなさいっ」
 簡単に解けていきそうな手と手の隙間を埋めるようにぎゅっと握り返す。
ふくちゃんは笑いながらわたしの半歩前を歩く。
引かれていく手の緩い力に歩幅を委ねて朝の道が一際まぶしく映る。



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