社会科教室の隣の準備室で、物陰に隠れて息を潜め、ドア一枚を隔てた向こう側で身内が情事に耽っている事実をどこか非現実的なものと受け止めながら、治はぼんやりと隣に座り込む少女の白い膝を見ていた。
 近付いた際に花のような香りがして、侑が「香水つけてるやつは、足開くんが早いわ」と部室で半ば呆れ気味に角名に溢していたのを、ドアの向こう側で聞いて、部室に入りづらくなったことを思い出した。
 くぐもった声が途切れ途切れに聞こえ、居心地が悪い。
 日直の仕事など普段はたいして無いはずが、今日に限って雑務が多い。
窓の外でも眺められる位置であれば気も紛れたものの、あいにく目の前には白い壁しかない。
 季節は厳しい冬を抜け、春の柔らかい日差しが降り注いでいるとはいえ、校舎の中の陽の当たらない教室で、床に直に座り込むとその冷たさがじわじわ身体に染み込んでくるかのように堪えた。
 ガタン、と一際大きな音がしてふたりで肩をびくりと震わせたが、こちらへの接触ではないようだった。
隣の教室へと続くドアはぴたりと閉まったままであるし、声は相変わらず断続的に続いている。
 手元に時計もスマートフォンもないせいで、時間の感覚は遠い。少なくともチャイムが鳴らないことを考えれば、まだ昼休みの時間の中にいることは確かではあるはずだ。
 準備室を出るには、一度、侑たちのいる教室の方へ抜けなければならない。暖房の入っていないこの部屋で、する事もないうえに物音や呼吸にすら気を遣わなければならないため、永遠のように時間が長く感じられた。
 るみかが同じ体勢でいることが辛くなったのか、一度床に手をついて体勢を変えようとした際、治が何気なくついていた手と重なってしまい、彼女が喉の奥で小さく呼吸した。
重なった手はすぐに離れたが、小さな動揺は治にも伝わり、お互いの存在がさきほどよりも強く意識されてしまった。
 髪が一束、清らかな水のように流れて、るみかは乱れたそれを耳に掛けた。女子が耳に髪を掛ける仕草が好きだと、以前銀島が言っていた。その場ではピンとこなかったはずが、治はようやくその気持ちがわかった気がした。
 花の香りは、髪から零れたようだった。確かめたくて距離を詰めると、るみかの濡れたような黒い瞳が、治を真っ直ぐに捉えて、離さなかった。
 薄く開いたくちびるに視線を向けると、るみかはぴったりとそれを閉じた。接触を許されているのだと思うと、気が昂った。
 唇同士が触れあう寸前、治が躊躇してしまうと、るみかが身体を寄せてきて、合わせると身体に熱が灯った。捕食されたような心地を味わったが、それでも構わなかった。



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