オトナの味
「なんで俺とこういうコトするん?」
いつものホテル、いつもの部屋、いつもの行為。
絶対に彼女はここ以外の場所で身体を重ねたがらない。
これだけ何度も重なり合ってるのに、俺の家にも一度も来たことがない。
一緒に手を繋いで街中を歩くことすら俺たちは許されない。
昔、彼女が「別に仲が悪いなんてことはないんだけどね」と言っていたのを思い出した。
だったらどうして俺なんかと、こんなこと。
隣でスマホを弄っている彼女に聞けば、スマホを閉じて真っ直ぐにこっちを見つめてくる。
大きな目を見開いて、黒い瞳をパチパチさせている彼女は随分幼く見える。
ついさっきまで俺の腕の中で快楽に溺れていた彼女が放っていた色気はどこかに身を潜めてしまっている。
「謙也のこと好きだからだよ」
まるで何でもないかのように笑いながらそう言い放ってまた画面を見つめる。
だっだら俺と…、
スマホを握る彼女の左手が目に入って、喉元まで出かかった台詞を飲み込んだ。
「俺も好きや」
忌々しいシルバーの輝きを視界から消すために彼女の身体を抱き寄せて唇を重ねた。
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