うわき | ナノ



共謀  


白石くんも、アイツも、私も。みんな最低だ。

ゼミの同期飲み。広めの半個室に5人。
最初は各自のゼミ課題進捗なんかについて話していたが、次第に話題は恋愛の方にシフトしていった。
5人が持ち回りで自分の恋愛について話す。
昔付き合っていた彼女について話すやつ、今好きな人について話す子、まだ彼氏がいたことない子。
そして白石くんには高校時代から付き合っている彼女がいることは同期内でも有名だったから、当然その子の話になる。
「なんかな、最近あんま上手くいかんくてな」
その一言をきっかけに、最後に回ってくるはずだった私の番は忘れ去られ白石くんの話で持ち切りになった。
みんなで寄ってたかって彼を問い詰めれば、2週間前の喧嘩をまだ引きずっていること、今回の喧嘩は今までとなんとなく違う感じがすること、今でも彼女のことは好きだけど自分から連絡するつもりはないことを教えてくれた。

失恋なんてしてないのに、みんなで白石くんを慰めるような雰囲気になって、追加のお酒をどんどん注文する。
みんないい感じに酔いが回ってきたときに白石くんが少し眠たげな表情で不意に尋ねた。
「そういえば、自分まだ話してへんよな」
確実にロックオンされた視線に誤魔化すこともできず、他のみんなも注目し始めてしまったので私も自分の話を始めた。

「ちょっと前まで5つ上の人と付き合ってたんだけどね。浮気されちゃって別れたの。」
付き合ってちょうど1年だった。
私が大学2年生の時に出会って、何回かデートをしてから付き合い始めた人で、初めて半年以上続いた彼氏だった。
彼のことが大好きで、これからもずっと一緒にいるんだって本気で思ってたし、1年経っても付き合いたての頃の気持ちは少しも薄れてなかった。

そろそろ1年だね、なんて話しながら一緒に温泉旅行の計画を立ててた。
せっかくだから奮発しようって言ってくれたのは彼の方で、露天風呂のついてるお部屋を予約して、電車の時間を調べて、宿周辺の温泉街についても色々とリサーチした。

旅行まで1か月くらいだったある日の夜、彼の部屋でお泊りをした。
彼がシャワーを浴びている間ふと目に入ってしまったスマホに表示された新着メッセージ
[昨日は本当にありがとうね。]
私の知らない女の人の名前。
きっとその人は職場の人で、仕事関係でなにかあっただけだ。だって私たちはもうそろそろ付き合って1年になるし、来月には一緒に旅行する計画を立てていたし、彼だって旅行を楽しみにしてくれているんだから。
胸の中に広がった嫌な感情を打ち消すように自分に言い聞かせて、そっと彼のスマホを裏返した。

二人で盛り上がってベッドでそういうことになった時に、彼がふと「あ…」と何かを思い出したようだから聞けば「ごめん…今日ゴムないや」。
どうして?この前来た時はまだあったよね?
そんなこと聞いても「この前掃除した時、間違って捨てちゃったのかも」なんて一言ですべて片付いてしまう。

それから自分がどんどん疑心暗鬼になっていって、結局大好きな彼を信用できなくなった私は彼の一挙一動をチェックするようになった。
彼は私のことが大好きで、私も彼が大好きで。
私たちはこれまで通り何も変わらないし、これからもずっと変わらない。
そう言い聞かせながらも、浮気の証拠を掴もうと躍起になっていた。

3週間経ってやっと見つけた証拠と一緒に彼を問い詰めれば、彼はただ「…ごめん」と言うだけ。
謝るくらいなら否定して欲しかったのに。そんなの浮気を認めたと同じ事だよ。信じてたのに。
私が何を言っても謝罪の言葉しか発さない彼に思い切りクッションを投げつけて彼の家を出た。
自分から出ていったくせに彼が追いかけてきてくれるんじゃないかって心のどこかで期待してたし、自分の部屋に戻ってからも彼からの電話をずっと待った。
結局1年記念日を迎えても彼からの連絡は1つもなかった。

「浮気ってホント最悪だよね」
笑いながら言い放てば、内容の悲惨さに言葉を失っていた同期たちが「ほんと浮気する男なんて有り得ない」「浮気は法律で罰せられるべきだ」なんて口々に騒ぎ始めた。
「浮気なんて誰も幸せになれへんよな…」と呟いた白石くんの言葉が何故かやけに大きく響いた。


5人で3軒もはしごすれば酔いも相当だった。
終電間際になってみんなそれぞれの帰途につきはじめる。
「明日のゼミ、遅刻すんなよー!!」「また明日ねーー」
JRを使う3人とはお店の前で別れ、私と白石くんは地下鉄駅の方へ向かう。
居酒屋やバーが立ち並ぶ賑やかな一画から外れた薄暗い道を並んで歩く。

「だいぶ飲んじゃったね」
「せやな、結構きついわ」
そう言って笑っている白石くんはいつもより少しふわふわしてて眠たそうだ。だから彼の申し出はかなり意外だった。
「なあ?もう一軒付き合うてくれへん?」
「え?大丈夫なの?」
「まだまだ…とは言わへんけど、もう一軒くらいなら俺は平気や」
もう一軒行けば確実に終電は逃す。それくらい白石くんだって分かってるはずなのに。
それが意味することが分からない程、私たちはもう子供じゃない。
「…一軒だけなら。」

二人で歩いた道を戻り、先ほどまでいた飲み屋街に再び足を踏み入れる。
道路沿いに置かれた看板を見て入ったパブは地下にあって、階段を降りる時に私が転ばないように白石くんが手を取ってくれた。
1段がかなり高く急な階段を降りながら、あぁどんどん堕ちてていくなあ、と頭の片隅に浮かんだ。

怪しげな階段の雰囲気とは打って変わって中は明るく、多くのお客さんでかなり賑わっていた。
少し年代の古いポップスが店内に流れている。
座席はすべて埋まってしまっていたため、店内の柱付近に設置されたテーブルを囲む立ち飲みだった。
「脚つらない?」
隣に立つ白石くんはパンプスで立ったままの私を気遣ってくれる。
「ん?大丈夫だよ」
陽気な若い店員さんがやってきてドリンクオーダーを取る。
「ハイネケン1つ」
「私も同じので」

「じゃあ、改めまして…おつかれー」
瞬く間にやってきたグリーンの瓶を合わせて乾杯する。
ゼミの同期仲間で飲むことはあっても、こうして2人きりで飲むのは初めてだった。
他愛のない話をして、大学のことについて話していれば自然とお酒も進んで、気が付けば2人とも瓶を空けるところだった。
私が新しいドリンクのオーダーをしようとバーカウンターへ向かおうとした時に少しだけバランスを崩してしまったのを、彼は見逃さなかった。
白石くんが支えてくれたおかげで私は転ばずに済んだ。
「俺が行ってくるから、ここで待っとき」
「…ありがと」
ドリンクなのか支えてくれたことなのか、どっちに対するお礼か自分でも分からない感謝の言葉を投げかけて大人しく彼を待った。彼を待ちながら店内の様子を見渡せば、若い人が多く、この時間帯にもなればみんな結構お酒が入っているようでかなり盛り上がっている。ふと目に入った革ジャンを着た男性の横顔があの人に似ているような気がした。こんなところにいるわけないのに。

「はい、お待たせ」
さっきと同じ緑の瓶を2本テーブルに置いた白石くんにお金を渡そうとすれば、別にええよと言って断られてしまった。
さっきよりも近い彼の温もりを感じながら、キンキンに冷やされた瓶に口を付ける。
白石くんももう一つの瓶を手に取って飲み始める。
ボーっと周りのお客さんを眺めていたら、白石くんの腕が腰に伸びて軽く引き寄せられた。
アルコールも回って良く考えられない頭を白石くんの胸にもたげたら、回された腕の力が強くなったような気がした。
これって浮気なのかな…そう思った時にふと数時間前に白石くんが呟いた言葉が私の頭の中に木霊した。
 [浮気なんて誰も幸せになれへんよな]



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