適材適所
「俺、お前のことけっこー好きかもしんねーわ」
行為が終わった後の倦怠感や充足感、虚無感が渦巻く独特の空気に身を預けていた時、不意に丸井がそう口にした。
下着だけを辛うじて身につけて、乱れたシーツの上に身を投げ出している彼はスマホを操作している。
「そう?」
身体を起こしてベッドに腰掛けた私は丸井に背を向けて、サイドテーブルに投げ捨てられるように置かれたライターに手を伸ばした。
「お前と付き合うのも悪くねーかもなって思った」
馬鹿みたい。
どうせ別れるつもりなんかないくせに。
「そういうの、いいよ」
煙を吐き出しながら言った。
ただ私の気を引きたいだけならそんな中途半端なこと言わないで欲しい。
「俺は本気なんだけどなー。まっ、しかたねーか」
起き上がった丸井が私を後ろから抱き締めて、そのまま私の指先で燃える煙草を取り上げて灰皿へいい加減に押し付けた。
まだ長さを残していたにも関わらず先端が押しつけられ、丸井の指で潰されたことで形を歪める煙草を見ながら、私もこの煙草と同じ運命を辿るのかと考えた。
都合が良い時に取り出されては、手軽に消費されていく。
かつて一度だけ遠目で見かけた丸井の彼女は、如何にも男の庇護欲を掻き立てるような人だった。
一言で言えば、正反対。
私はセフレ、あの子は彼女。
互いにお似合いの役回りだと思った。
背後にいる丸井が私の顎をつかんで振り向かせる。
「…まっず」
深く長いキスの後、彼は乱暴に言い放って私の身体をシーツに押し付けた。
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