うわき | ナノ



見えない指輪  

会話文のみ

「結婚ってさ、つまるところ何との契約なんだろう」

「突然何事だ」

「日本はどうか知らないけどさ、少なくとも西洋の歴史上では婚姻関係って要するに契約関係だったわけじゃん。それで今の私たちは近代に流行ったヨーロッパの真似事の中で取り入れた西洋の婚姻スタイルを踏襲しているわけでしょ?」

「まあ、そうだろ。明治より前の結婚式は儀礼的側面の方が強かったはずだ」

「だからわざわざ現代に生きる私たちは西洋式の結婚式で神の前で永遠の愛まで誓ってみたりしてさ。」

「何が言いたい」

「つまり、私たちの愛の誓いって神との契約ってことなの?」

「神との直接契約ってよりかは、教会で式を挙げることで人間同士の契約を神が証人として見守るって意味合いが強いんじゃねーのか」

「なるほどね。つまり神そのものとは契約を結ばないわけか」

「結局は男と女が契りを交わすってことだろ」

「なんだ。じゃあ神との悪魔契約みたいにはならないわけね」

「っは、悪魔契約の方が良かったのか?」

「そういうわけじゃないけど。神との契約だったら不倫だって神様を裏切ることになるかもしれないけどさ。パートナーとの契約ってだけなら自分がさして好きでもない人間を裏切ることになるだけでしょ。そんな契約、何の意味があるんだろうね。象徴に指輪まで付けちゃってさ。どうしてみんなそんなに自分の身動き苦しくさせるんだろうって」

「お前だってその一人だろうが」

「だから私はこの社会の慣習の被害者なの」

「だったらお前のその薬指に嵌ってるそれ、俺が外してやるよ」

「そしたらまた景吾が新しいの嵌めてくるんじゃないの」

「お前が結婚に縛られたくないってんなら、俺はそれでも構わねえよ」

「景吾が良くても跡部財閥は良くないでしょうよ」

「そんなの俺様が良ければいいんだよ」

「うそつき。景吾だってそろそろ結婚しなきゃいけない時期でしょ」

「だったら俺と契約結ばねーか」

「この話の流れでどうしてそうなったの」

「別に俺と結婚しろなんて言ってねーよ。お前がもしそうしたいなら俺としてはこの上ない話には違いないが、そうじゃねえ。ただお前が表面上どこのどいつのもんでも、お前は俺の女だ」

「ふーん?」

「指輪なんて現物で縛られる必要はない。ただ、俺たちの間だけの話に留めればいいだけだ」

「契約違反したら?」

「今度こそ誰の目にも見える結婚指輪でお前を縛り付けるまでだ」

「悪くないかもね」






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