百人一首 | ナノ



刹那のキス_


 これやこの 行くも帰るも 別れては 
   知るも知らぬも 逢坂の関
               蝉丸


「空港ってさ」

大きなボストンバッグを1つ抱えて立つ手塚に言った。
先程まで引いていた重いスーツケースは既にカウンターで預けてしまった。

「昔で言う、関所みたいだよね」

目の前にいる手塚は特に考える素振りも見せずに答える。

「まあ、そうだな」

その様子がまるで彼らしくて、こんな時にも変わらない彼が愛おしい。

「行ってらっしゃい」

セキュリティチェックへ続く通路へ差し掛かる手前のエリア。ここから先は航空券を持たない私は立ち入ることができない。

「ああ、行ってくる」

一瞬伸びてきた手が頬を捉え、続いて落とされた温かさに心も満たされて、私に背を向ける彼を見送った。



歌意:これがあの、これから旅立つ人も帰る人も、知っている人も知らない人も、別れてはまた逢うという、逢坂の関なのですよ。


▽10番、雑歌。
はじめは東京駅にしようかと考えていた現代版逢坂の関。気が付いたら空港が舞台になっていました。あくまでも手塚が帰ってくるのは「日本」であって欲しいなと思って書きました。
そういえば手塚って謎の歌うたってますよね。kissっていうんですけど。



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