百人一首 | ナノ



忍る恋_


 しのぶれど 色に出でにけり わが恋は 
   ものや思ふと 人の問うまで
               平兼盛


「見てられないな」

放課後の教室からテニスコートにいるあの人をこっそり見つめていた時、ふと教室にやってきた日吉が声を掛けてきた。

「え、日吉。部活は?」
「ちょっと教室に物を取りに来ただけだ」
そう言いつつも窓際に立つ私の隣までやってきて一緒にコートを見下ろす。

「あの人はお前なんか眼中にない」
鋭い眼光でコートに立つ彼を射抜く日吉はどこか挑戦的だ。

「知ってたの?」
私があの人に想いを寄せてることは誰にも言うまいと決めていたのに。
どうせ叶うはずもないのだから、自分の中で人知れず消化して、端からなかったことにしてしまおうと思っていたのに。
「見てれば分かる」
「誰にもばれてないと思ったんだけどなー」
「お前は分かり易すぎる」
呆れたように笑う日吉を見て、そんなに態度に出ていたのか、と自分に驚く。
「大丈夫、本人に伝えたりしないから」
この恋は私の心の中だけでそっと完結させることにするから、振り向いてもらおうなんて思わないよ。



歌意:心のうちに堪えてきたけれど、顔色や表情に出てしまっていたのだった。私の恋は、恋の物思いをしてるのかと、人が問うほどまでになって。


▽40番、恋の歌。
自分では隠し通していたつもりだったのに、という夢主さん。と、彼女をずっと見ていたからこそ気付いてしまった日吉くん。日吉夢、とは言いきれない日吉の夢。
“あの人”への思慕と、彼女への思慕。2つの隠れた恋心こそが忍る恋。
さあ、あの子の視線の先には誰がいるんでしょうか。



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