期待_
逢ふことの 耐えてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
中納言朝忠
「のう、この前言っておったハンバーガーのお店」
ベッド脇に腰かけてシャツを羽織ろうとしている仁王が突然そんなことを言い出した。
一体いつの話だろう、確かに行きたいお店はあったけど仁王にそんなこと言ったつもりはなかった。
言ったところでどうせ一緒に行けるわけじゃないことは分かってたから。
でも、きっと自分でも無意識のうちに言ってしまっていたんだろう。
私も私だし、そんなことをわざわざ覚えている仁王も仁王だ。
「あぁ、あそこ?それがどうしたの?」
「今度一緒に行かんか?」
そうだね、曖昧に笑って私はごまかした。
君が私に連絡してくる時間にはそんなお店は閉まっているのに、一体何を言ってるんだろうね。
でも、その言葉が嬉しくて、次はまだお店が開いてる時間に彼と会えるのかなって。
そんな淡い期待を抱いてしまう自分が一番馬鹿らしいと思う。
歌意:もし会うことが絶対にないのならば、かえって、あの人のつれなさも、わが身のつたない運命も恨むことはしないのに。
▽44番、恋の歌。
どうせなら二度と会えないくらいの方が期待もせずに済むのに、妙に「次」が匂わされてしまうから、どうしても期待を捨てきれずにいる、そんな宙ぶらりんの恋。
![](//static.nanos.jp/upload/c/compassprince/mtr/0/0/20210124145042.jpg)
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