6years | ナノ



JH3 夏_


【高輪ゲートウェイ】

女テニと男テニでは会場が違っていたため、私は男子の大会を直接見に行くことは叶わなかった。自分たちのチームの試合が終わった後、顧問から男子の試合結果を教えてもらった。
白石は不二君に勝ったんやね。
四天宝寺としては青学に負けてもうたみたいやけど。白石どんな顔してたんやろう。
不二君とのゲームに勝った時。それに、四天宝寺が負けたって分かった時。
悔しかったやろうな。人一倍責任感の強い人やから、きっと自分で色んなこと思い詰めてるんやろうな。…大丈夫やろうか。
彼の中では、リベンジ、成功したんやろうか。それは私には分からへんけど、でも今日で私たち3年の部活は終わったんや。それだけは確実だった。

それに、あの少し生意気な後輩はどうしてるだろう。
去年の冬以来、あの後輩とはよく一緒に過ごすようになった。それは決まって互いの部活終わりのことだったから、小一時間程度公園で話したりファミレスで過ごして解散するだけで、あの日のようなことはあれ以来一度もなかった。
でも何となく以前と比べると互いに打ち解けたような気はしていた。

女テニは男子のように準決勝まで進むことはできなかったが、それでも順位入りは果たすことができた。部員のみんなと打ち上げと称して、監督が東京のちょっとお洒落なレストランに連れて行ってくれるらしい。男子は今晩どうするんだろう。
[先輩、打ち上げ終わった後少しだけ外出れませんか]
四天宝寺のテニス部が男女合同で宿泊しているホテルの近くにあるレストランで打ち上げを行ってる途中に後輩から連絡が来てることに気が付いた。
2,3回のやり取りで男子もホテル近辺で打ち上げをやってること、互いにもうそろそろ終わりそうなことが確認できたので、20時頃にホテルのロビーで待ち合わせることになった。


「悪いけど私ちょっとこの後、軽く散歩行くから先部屋戻ってて?」
ロビーには財前の姿はなく、きっと男子の方が少し長引いているのだろう。このまま部屋に戻らずロビーで彼を待つことにした。
「なんや?したらうちも一緒に行く」
「あー、ちょっと、な」
そう言って言葉を濁すとみつきは色々察したような顔をして「ごゆっくり〜」なんていってエレベーターホールに進んでいった。

白石のことが好きだってことも、告白したってことも、振られたってこともみつきには何も言ってない。そもそも誰にも言わずにずっと秘めておくつもりだったんだから。
でもきっと私の親友は私の気持ちに気付いているんだと思う。唯一の同期部員だからみつきを事あるごとに頼る私も悪いが、そのたびに「部長に聞けばええやろ」といってやたら私と白石を近付けたがるのはきっとそういうことなんだと思う。
それは私が白石に振られた後も変わらず続いていたし、私も私でそうやって白石と繋がりが持てるならいいと思って以前と変わらず彼を頼り続けていた。
白石だって何もなかったような態度で接してくるんだから、きっとあの日のことはお互いの中でなかったことになってるんだ。

頭の中でグルグルと思考を巡らせていたら賑やかな関西弁が聞こえてきて、意識が現実に引き戻される。
「おー、椿、お疲れ!!」
一際賑やかな謙也が扉近くで叫んでいる。隣の白石が謙也の行為を窘めているような素振りを見せる。さすがテニス部のおかん。そんな様子を気にもせず遠山君が大きな声で騒ぎ続けている。走って私に近づいてきた彼は開口一番に聞いてきた。
「女テニで一番強いんが、ねーちゃんなんやろ??」
「どやろか。遠山くんは男テニで一番なんやろ?」
そうきいたら迷う素振りも見せず、せやで!!と言って答える彼の無邪気さが眩しい。
「女テニがベスト8に入ったのはねーちゃんの力やって、白石が言うてたで!!」
なんやそれ、そう言って笑い飛ばそうと思ったら、追いついてきた白石の声にそれも遮られてしまった。
「こら、金ちゃん。いらんことベラベラ喋ったらあかんで。はよ、風呂入って寝る準備せな」
「やっぱ、白石は部長ってよりもテニス部のおかんやね」
遠山君に世話を焼いている様子に思わず我慢できず笑ってしまった。白石は気まずそうに目を背けるだけで特に反論はしてこなかった。なんや、言いかえしてくるかと思ってたから意外。
「せや。ねーちゃん何してるん?」
キラキラした目で聞いてくる後輩は可愛いし、白石がこの子を放っておけなくなる気持ちもよくわかる。こんな子が今の男テニで一番実力を持ってるというんだから侮れない。私は彼がプレイするところを実際に見たことはないけれども、男テニの練習を見学に行っていたというみつきから聞いたことがあった。

「ねーちゃんはこれから俺にちょっと付きおうてもらうんや」
財前の発言に小春や謙也がざわざわしている。
「なんや〜今からデートなん?光も隅に置けんわ〜」「ちょ、お前ら、いつの間に…!!不純異性交遊やで!!」
「そういうんとちゃいますんで、誤解せんといてください。ほな。」
先輩、はよ行きましょ。
いまだに騒いでいる謙也たちを置いて私たちはロビーを後にする。別にやましいことなんて何もない。でも、なんとなく、私は白石の方を見ることができなかった。背中に突き刺さる視線が痛かったのは私が勝手に後ろめたい気持ちでいるからなんだろう。彼らを振り返ることなく私は財前の後ろをついて歩いた。

ホテルを出ると自然と手を取られ、その手に導かれながら歩く。こうしていると去年の冬を思い出す。
「そこの公園でいいっすか?」
財前が指したのはホテルから10分ほど歩いたところにある小さな公園だった。
真夏の蒸し暑い空気は夜になっても重く身体にまとわりつく。
試合が終わってからシャワーなんて浴びる暇もなく、簡単に着替えだけ済ませて打ち上げに行ってしまったせいでべたつく身体に不快感を覚える。
汗拭きシートなんて東京の熱帯夜では微塵も役に立たない。
「その前に、コンビニ寄ってもええ?アイス食べたい」
打ち上げで飯食ったんとちゃうんすか、太りますよ、なんて軽口を叩く後輩はいつも通り生意気だ。なんや元気そうで良かった。
「公園で待ってて。すぐ買ってくるから。」
財前を残して一人コンビニに向かった。店内は冷房が効いていて気持ちいい。一人で食べるのもなんとなく憚られたので2個のアイスクリームを買って私は公園へ急いだ。
遠くから見えた財前はベンチに浅く腰掛けて膝に両肘をついたまま頭を抱えていた。俯いてしまっているためその表情は見えない。
「はい」
先輩からのプレゼントやで。
そういって彼の首筋に買ったばかりのアイスを押し付ければ素直に受け取ってくれた。
二人で並んでベンチに座りながらアイスを食べる。
「んーーー、冷たっ。こない暑いとやってられへんよな」
「そっすね。今晩は特に暑いらしいっすよ。」
「そうなん?」
「知りませんけど」
「なんやねん、てきとーか。冷たいアイスが身に染みるわー」
「はよ食べんと、溶けてまいますよ」
ほらこっち、私の持っているアイスが垂れ始めてきているのを指して財前はそこを舌で舐めた。白いアイスクリームに這う赤い舌を見てドキッとした。
「あーーー、私のアイス食べた」
「垂らしてる方が悪いねん」
「じゃあ財前の一口ちょうだい」
「同じやつやないっすか」
言いながらも私の方にアイスを差し出してくれるから、私も遠慮なく一口頂いた。
財前のアイスは私のアイスと同じ味がして、なんだか可笑しかった。
「なにわろてんねん」
んーん、何もない、なんて言いつつも笑いが止まらなくて私は声を出して笑いながら溶け始めたアイスを食べ続けた。甘い夏の思い出。






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