6years | ナノ



JH2 夏_


【沈むソファ】

日本人の選手が全仏オープンに出場する、そんな話題が朝の情報番組から流れてきた。
(続きまして、お天気のコーナーです――)
全仏かあ、すごいなあ。
(週末は梅雨晴のお洗濯日和と――)


梅雨盛りで毎日雨が続いて嫌になる。気温も少しずつ上がってきて、じめっとした重たい空気が電車を降りるとまとわりついてくる。ふと隣を見ると別の車両からみつきが降りてくるのを見つけた。
「みつき、おはよ」
「椿!今朝の全仏のニュース、みた?」
「見たで見たで。すごいよなあ」
「うち、有料放送加入してるから見れるんやけど、週末うちん家で一緒に試合観戦せえへん?」
丁度週末に松下選手の試合やねんでー。あの人ほんまイケメンよなーなんてうっとりしながら傘をくるくる回すみつきに笑いがこぼれる。
「さすがみつきやん。行く行く。お菓子いっぱい持ってくな」
二人で全仏に出場する選手についてあーでもないこーでもないと話しながら歩いてたら、後ろからきた白石に声をかけられた。
「それ、次の全仏の話やろ?」
「あ、部長やん、おはよう」
みつきは今年に入ってから白石をいつも「部長」と呼ぶようになった。最初の頃は白石も照れて嫌がっていたが、今はもう注意しなくなっていた。「部長」であることも馴染んできたのかもしれない。私がそんなことをぼんやり考えている間にもみつきと白石の会話は進んでいく。
「せや、部長週末なんかあんの?」
「なんもないで」
「うちで椿と松下選手の試合見る約束してんねんけど、部長も一緒にうちくる?」
「齋藤の家、試合中継見れるんか?」
「せやで〜」
「めっちゃええやん。」
「な?来るやろ?」
「せやな。お邪魔させてもらうわ。おやつ持ってくで」


「なんで謙也がおるん?」
みつきの家の最寄り駅で白石と待ち合わせてたはずなのに、そこにいるはずのない人物を見つけて思わず声をかけてしまった。
「白石に誘われてん!」
という謙也を無視して、白石は?と聞くと、次の電車で到着するらしい。
白石も合流してから、みつきの家のリビングにお邪魔して3人でソファに並んで座って試合開始を待った。
謙也は床に座っている。家主に直接招かれたわけじゃないんだからそれくらい当然だ。
私と謙也が持ってきたスナックをお皿に出して、さながらおやつパーティー状態だ。ちなみに白石は貰い物で悪いんやけど、と言いながら高級そうなゼリーを持ってきてくれた。
謙也はローテーブルの目の前に座っているためどんどんスナックを口に運んでいく。
「食い過ぎや」
コラ、と言いながらソファから少し身を乗り出してローテーブルにあるお皿へ腕を伸ばす白石。白石が身を前に乗り出してからソファに再び深く腰掛けるとソファがそちらに深く沈む。
なんとなく白石の方に体が傾きそうになるのをやけに意識してしまうので、私もスナックを取るフリをして少しみつきの方に体を寄せた。
いざ試合が始まってしまえば私はそれすらも気にならない程、画面に釘付けだった。ポイントが決まるたびに皆で歓声を上げてはしゃいだし、相手選手に取られた時には今のはこうすべきだった、あのコースはどうだこうだ、なんて好き勝手言い合った。
結局私たちは皆テニスが好きなんだ。
松下選手は残念ながら2-3で2回戦敗退だったけど、3時間近い試合でかなり粘っていたと思う。何て言ったらみつきに、椿は何様やねんと笑われてしまった。

「なあ?テニスせえへん?」
白石の一言に私たちは全員賛同した。自分たちもあれくらい上手くプレイできるようになりたい、全員の気持ちは一致していたんだと思う。久しぶりの晴れで、天候は文句なしだ。
「ラケットはもし3人が良ければやけど、うちにあるやつ貸すで」
うち家族みんなテニスやんねん、というみつきの言葉に甘えることにした。
長い梅雨でコート練習も思うように出来ていなかったこともあって、私たちは自分の家にラケットを取りに帰る時間すら惜しいほど、すぐにでも体を動かしたかった。
美月の家から歩いて10分ほどのところにある大きな公園の中にはテニスコートが併設されていた。
「せっかく4人なんやし、ダブルスで試合にせえへん?」
それは謙也の思い付きだった。
「せやったらミックスやな」
「ペアはどやって決めよか」
「ぐっぱーでええんちゃうの?」
私は勝手にシングルスで軽く打ち合うものだと思っていたから「試合」というワードに驚いた。しかし白石やみつきは然程驚いているどころか、ノリノリで話を進めていく。
「椿?」
白石に名前を呼ばれて我に返る。
「ああ、ごめんごめん。ぐっぱーな。はよやろ!」
白石と一緒にコートに立つ日が来るとは思ってなかった。いつもコート脇から見てるだけだから。ペアになっても、対戦相手であってもどちらにしても楽しみだ。
去年、初めて見た時から釘付けになってるプレイヤーと一緒にできるんだ。
「ほな、行くで!」謙也が声を掛ける。





「「「「ぐっぱーで、ほい!!!!」」」」






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