6years | ナノ



JH1 春_


【一房のソメイヨシノ】

来週からは中学生になるんだ、そう思うと少しだけ自分が大人になった気分だった。
子供のころからずっと暮らしていたこの町が新鮮に見える。
いつもと同じ住宅街も、商店街も、公園も何もかもが新しく見えるような、不思議な感覚だ。
ふと見えた桜の木があまりにも大きくて、近くで見てみたいと思って公園の中に足を進めた。
その公園は小さく、ブランコと滑り台が1台あるだけであとはほとんど何もない。
そこに不釣り合いなほど立派な桜の木が1本。
桜は見頃を過ぎてもうほとんど散ってしまっているようだ。
俺は桜の木よりも、床一面に広がる桃色に目を奪われた。
小さい公園の床一面が桜の花びらで埋め尽くされていて、歩くたびに花びらが舞う。
それもそうだ。この木になる桜にこの公園は手狭すぎる。
こんなに小さい公園にこの大きさの木なのだから花びらは有り余って、まるで秋に散った枯れ葉を蹴って歩くときのような感覚を覚える。
「えらいこっちゃ…」
地面に夢中になっていた俺は、一心に桜の木を見つめる人影に気付くのが遅れてしまった。
もう花が残っていない裸の枝をじっと見つめる彼女に俺はなぜか目が離せなかった。

「ほんまに…。えらいこっちゃね」

そう言ってこちらを振り返り、笑った彼女に俺は体中の熱が顔に集中するのを感じた。
呼吸をするのも忘れるくらい美しい景色で、ずっと見つめていたいと思った。
「まだ一房だけ残ってんねんで。」
ほら、ここ。
彼女が嬉しそうに指差した枝を見ると確かにそこにだけ花がまだ残っていた。
そうか、彼女はこれを見つめていたのか。
「きれいやね」
そういう彼女に俺は何も言葉を返せなかった。
君の方が、そう思ったけど初対面の見ず知らずの相手に言うことじゃない。
枝を見上げる彼女の姿に言葉を飲む。
「じゃあ。お花見、楽しんでな。」
そう言い残して彼女は公園を後にした。

不思議な出会いだった。





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