6years | ナノ



追憶


3月下旬、この時期にこの公園に来ることが習慣となって7年目。
もうここで彼女に会うことなどないということを知っていても習慣となってしまった“お花見”は今更やめられない。

この公園の桜を見れば、蓋をしていた彼女の記憶が甦る。
今年のその木にはまだ桜の花びらが色付いていて、散り始めて間もないように見える。風に吹かれて舞う桜を見れば、たった1房の桜を見つけて喜んでいた彼女の笑顔が浮かぶ。
これが全て散ると、あの日のような床一面桜色の景色が訪れるのだろう。

中3年の頃。優勝した時には自分から気持ちを伝えようと決めていたから、そのためにも前にも増して必死に部活に打ち込んだ。
そんなことせず、一瞬立ち止まって彼女と向き合うべきだった。あいつなら分かってくれる、そんな自己中心的な考えはやめるべきだった。
あの時に見栄を張らずに彼女に言いたいことを言えていれば、そう考えた日は両手じゃ数えきれない程ある。
後悔しようがどうしようが何もかも遅いのは分かっていても、「もしも…」、そう考えるのを止めることはできない。

もしあの時、「俺も」そう言っていたら。

教室を出ていく彼女を引き留めていたら。

試合が終わってすぐに会いに行っていれば。

財前と外へ出ていく後ろ姿を呼び止めていたら。

好きなのは俺のテニスだけか、と聞けたら。

引っ越しは本当なのかと本人に聞けていたら。

講習なんてすっぽかして後輩の試合の応援に行っていたら。

あの電話の後すぐにでも会いに行っていたら。

数えきれないほどの「もし」が溢れては、春風に吹かれて桜と共に散っていく。

もう一度傍に行けるなら、もう二度と離さない。
もう一度チャンスがあれば、もう失敗しない。
叶うことがないとは分かっているけれども、何もかも手遅れなことを分かっていたところで、それで割り切れるほど簡単な気持ちじゃない。それで忘れられるくらいなら、もうとっくの昔に全て清算できている。

桜舞う公園で、少しずつ花びらで染められた床。
7年前の彼女の笑顔を想いながら俺は歩き出す。


俺たちの6年間が終わりを告げた。





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