6years | ナノ



SH3 夏_


【藍色の空】

試合会場を出てから光に電話を掛けて呼び出した。
なんで今更。なんでこんなに時間が経った今。なんでなんで。
考えれば考えるだけむしゃくしゃしたし、ぐちゃぐちゃになった頭をどうにかしたかった。
駅前で合流した光の手を引いて黙って歩けば、彼も黙って私に付いてきてくれる。
いつもこうやって私のこと甘やかして、頭がいっぱいでどうしようもない時には傍にいてくれるし、そうすれば自然と落ち着いて考えられるようになる。
そのまま彼を引っ張ってホテルまでくると、その前で光の足が止まった。
「椿先輩」
戸惑うような、咎めるような声で私を呼ぶ。
「お願い」
中へ進むことを渋る後輩に懇願する。
「自分が何してるか分かってるんすか」
イラついた様子で聞いてくる光に黙って頷けば、「後悔しても知らんからな」そう言って中へ導かれていく。

部屋に入るや否や噛みつくようなキスをされて乱暴にベッドに押し付けられる。
前にされたジワジワとゆっくり隅々まで侵食してくるようなキスとは全く違った。
苦しくなってもがいても離してくれない。
ただでさえぐちゃぐちゃの頭がもっと回らなくなって、何もかも訳が分からなくなっていく。
乱暴に服を剥がされて、全身に絶え間なく与えられる刺激に耐えるためにシーツを手繰り寄せて力任せに握りしめた。
耳から首、鎖骨、臍へ胸へ臍へと下りていき、腰、腿、脚と全身を執拗に何度も攻められて、それだけで達しそうになる。
ぐっと強く腰を掴んで引かれれば、あてがわれた熱を感じてぐっと身構える。身体を倒してきて私に覆いかぶさるようになった光の手がシーツを握っている私の手に重ねられてゆっくりと絡められていく。同時にゆっくりと中に入ってくるものは慎重すぎるほど慎重で、先ほどまで苦しくなるくらい快感を与え続けられていた身体は更に強い刺激を求めて、もどかしくなる。
「光…」
彼の名前を呼ぶ自分の声が、あまりにも物欲しげで驚く。
「なんすか?」
私はこんなにも余裕がなくて早く欲しくて堪らないのに、光は余裕そうな表情で私を見下ろしてくるから悔しい。
「…はやく」
こんなこと自分から言うなんて。
「お願い、はやく」
自分から脚を絡ませてさらに奥に導きながら、首に腕を回してキスをすれば自然と吐息が漏れる。久しぶりの光の温もりに安心すれば、急に奥を強く突かれて思考が飛びそうになる。
何度も繰り返し突かれる度に漏れる声は抑えきれない。肌がぶつかり合う音の狭間に聞こえる水音と自分のものとは思えない声が部屋に響きわたって聴覚すらも刺激されるようだ。
身体が反転させられて四つん這いになると、腕を後ろに強く引かれて腰を打ち付けられ続ければ頭がチカチカしてくる。
「先輩、イってもいっすよ」
そう言いながらどんどんスピードを上げてくる光に何も返事できず、ただされるがままに喘ぎ続けた。

そんな行為を何度か続けてようやく解放された時には、疲労と怠さで身動きが取れなくなっていた。二人でベッドの中に入って、半分光に乗っかるようにして彼の身体に腕を回す。
今日は最初からイライラしているのは変わりなく、行為が終わってからも彼はほとんど言葉を発しない。光の胸に頭を乗せながら彼の左頬を撫でて、ぽつりぽつりと言葉を発していく。
「なあ。今日な、白石に会うたんや」
「当たり前やないすか」
相変わらず不機嫌な声。
「せやな」
「で?」
「は?」
「いや、部長に会うてどうしたんすか。」
一応話は聞いてくれるみたいだ。
「あー、まあな。白石に言われたんや。」
「なんて」
面白くなさそうな声。
「白石、私のこと好きなんやって」
「…。」
ほら、何も言わない。目も合わない。
「なんや、なんか言いや」
「…良かったんちゃいます」
そんなこと思ってもないくせに。
「ほんでな、白石、私と付き合いたいねんて」
「ふーん」
「…。」
彼の左頬を撫ぜる手を止めれば、やっと目が合った。
「で?部長と付き合うんすか。」
「そう思うやろ?」
「…。」
黙ってこちらを見つめてくる瞳に吸い込まれそうになる。
「私もな、そう思ってたんやで。だって白石やで。ずっと好きやってん、白石のこと。両想いなんやったら、そら、付き合うに決まってんねんな」
「せやな」
「でもな、私な、おかしいねん」
そう、何かがおかしい。白石と久しぶりに顔を合わせた時から、何かが違う。
「いつもやろ」
光の軽口が戻ってくる。
「うるさい」
「で?」
「あ?うん…。なんか、あんまな?嬉しいと思わんかってん。」
白石と話していても昔みたいにドキドキしなかった。
「…。」
「そら、人から好かれるんは嬉しいに決まってんねんけどな。なんつーか。なに?分からへんけど、好きな人と漸く両想いになれて幸せやーっていう感じとちゃうねん。」
「バグってんとちゃいます?」
「失礼やな。でもな、私言うてもうたんや。」
「なんて」
「白石とは付き合えへん、って」
「…」
ぴくりと眉が動き、光の鼓動が少し速くなった気がする。
「びっくりやろ。そんなん私が一番驚いとるわ。でな、光。聞いてや。もいっこ凄いことあんねん。」
私は凄いことに気が付いてしまった。
「なんすか。」
いつもの仏頂面で聞いてくる。
「私な、たぶん光に惚れとんねん」
「は?」
かつて引っ越しを告げた時に一度だけ見た顔と同じ顔。
「なんやねんその反応」
「…そっちこそ多分ってなんやねん。素直に、俺のこと好きって言えばええんすよ。」
素直じゃないのは君の方だよ。
「光は?」
「…」
私の左耳に届く鼓動は誤魔化せないよ。
「光は私のこと好き?」
「まあ…。」

ほんと、

「なあ、光?」
「なんすか。」
「私も、光のこと好きやで?」
「…当たり前やろ」

素直じゃないなあ。



口では強がるくせに、今日初めて抱きしめてくれた腕は息ができないくらい力強くて思わず笑ってしまう。







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