6years | ナノ



SH2 秋_


【秋の夜長】

新大阪発の終電は21:24発、現在時刻22:58。
私は一度ベッドから身を起こしスマホを取るためバッグを手繰り寄せた。
お母さんには大阪に行くことは伝えてあったため、こっちの友達の家に泊まることになった、とだけ連絡をいれよう。

スマホを開くと何通か通知が入っていた。
東京の友達から3つ、お母さんから1つ、謙也から1つ。
クラスメイトからは夏休み課題についての質問、お母さんは私が大阪で泊ってくる事に気付いていたようで、迷惑をかけないようにとだけ注意された。
謙也からの連絡は大体半年に一回の頻度であるだけで、いつもよく分からない画像が添付されてきていた。
道端に落ちていたみかんの皮だったり、駅のホームで見つけた片方だけのサンダル、部室に出たヤモリ、賞味期限が1年以上過ぎた缶詰など変な物ばかりだった。
どうせまた訳の分からないものを見つけたのかと思いトーク画面を開くと、そこに写っていたのは男子テニス部同期のメンバーたちだ。左端に謙也、そのすぐ隣にいて写真の真ん中に写っているのは白石と健二郎、後ろには小春とユウジ、銀がいる。
自撮りが下手糞な謙也が撮ったのだろうから、画面いっぱいに人物が写されていて、奥にある背景はほとんど見えない。
画像を拡大して背景に目を凝らすと、夜空に浮かぶ花火が画面右上に途切れていて、河川敷に沢山の人が集まって座っている様子と、川沿いに立ち並ぶ屋台が見える。
「なあ光、今日って大阪でも花火あったん?」
聞くと、ベッドで横になりながらスマホを弄っていた光がこちらに顔を向ける。
「あー、淀川のやつっすね」
起き上がって背後から抱きしめてこようとするから、咄嗟にスマホの画面をオフにして鞄の中にしまい込んだ。
首筋から頬にかけて唇を寄せてきて軽く啄んでくるのが擽ったくて身を捩れば、腰に回された腕に力が籠められる。剥き出しの背中に触れる素肌が温かい。
「先輩らも行ってるらしいっすよ」
そのままの姿勢で喋られると首にかかる吐息に熱が呼び戻されそうになる。
ほら、と見せられた光のスマホ画面には先ほど私が見ていたものと同じ画像が表示されていた。

あんな事を言ってしまった後に、光の腕の中で本人の写真を見せつけられれば無性に居心地が悪くなり、腕から抜け出すため立ち上がろうとするも、更に力強く抱きしめられ、首筋に顔を埋めた光が呟いた。
「逃げんなって言うたやろ」
くぐもって遠く聞こえる声はどことなく苦しそうな色を帯びていて、そんな切なそうな声を聞いてしまえば私も大人しく光に包まれるしかなかった。
「…シャワー浴びたい」
私のお願いすら「そんなのええ」と流されてベッドに組み敷かれてしまうから。
私も、目の奥に焼き付いて離れない写真の中の彼の笑顔を掻き消すように光にしがみついた。


東京に戻ってからは、夏の大学訪問や来年の進路選択などが続き、毎日を忙しなく過ごした。
ふと気が付いた頃には木々が色付き、冷たい風が枯れ葉を騒がす季節になっていた。
久しぶりにゆっくり過ごす週末、やっと落ち着いて休む時間が取れた日曜の夜。
急に時間が余ってしまうと今までどうしていたのか分からず、手持無沙汰に寝転びながら天井を見つめていた。
静かな部屋で白い天井を見上げていると、あの時のことを思い出してしまう。
光の肩越しに見た天井と間接照明を今でも鮮明に覚えている。
「…俺じゃあかんの?」
確かにそう聞こえた光の声を快楽に溺れて聞こえないフリをした。
あの日、私が目を覚ました時には光はもう起きていて、ずっと私の髪の毛を弄っていた。彼が随分楽しそうだったから私も光の髪の毛を触れば、一度だけきつく抱きしめられた。何となくいつまでもそうしていてはならないような気がして、「そろそろ行くかな」と言えば彼は呆気なく離れていった。自分で言ったくせに、与えられていた熱が離れていってしまうのをほんの少し恋しく感じた。都合良すぎやな、ほんま。
その後は随分あっさりとしていて、交代でシャワーを浴びて身支度を整えて、まるで何事もなかったように夏の朝の神戸を並んで歩いた。
太陽が高く昇る中を歩いていれば、光の様子はあまりにも今まで通り過ぎて、昨日の光の言葉もそのまま日常に消えていくような気がした。
後輩の好意を利用するだけ利用して掃き捨ててしまうような行動を取ったことへの罪悪感だけが秋の夜に残る。





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