6years | ナノ



SH2 夏_


【最終列車】

夏休み。
ほんの思い付きだった。計画なんて何もない。
ただ片道切符を窓口で買って、駅員さんに教えてもらったホームに行って、そこに来た電車に乗っただけ。たまたまその電車が大阪行きの新幹線だっただけだ。
品川を通過した辺りで新幹線のデッキに出てずっと頭に浮かんでいた人物に電話をかけてみた。別に出てくれなくても構わない。会えなくても構わない。ただ、きっとあの子ならこの思い付きにも付き合ってくれるような気がしていた。

「もしもし?」
『椿先輩?どうしました?』
「11時21分新大阪着」
『は?』
「11時半くらいに大阪駅の中央改札でええよね?」
半ば無理やり押し通せばしばしの沈黙の後、電話口でも分かるくらい大きなため息を吐いて一言、
『ええっすよ』
電話を切った直後にメッセージが届いて、私の乗っている新幹線の列車名を聞かれただけで、それ以降は特に何も聞かれなかった。

新大阪から大阪へ向かうためのJRに乗り換えようと乗り換え専用の改札を通過したところで不意に右腕を捕まれてぐっと引かれた。
「え?光?何してんねん」
「そっちこそ何してくれてんねん、ほんま」
こっち来るならもっと早よ言えや、なんて文句を言いつつも2人並んで歩き始めれば自然と手が取られ指先が絡み合う。私たちって何なんだろう。
新快速に乗り込んで大阪へ向かえば、故郷に戻ってきた実感が湧く。
聞こえてくる関西弁も、エスカレーターでみんなが右側に立つのも、ロープ式のホームドアも何もかもが懐かしい。
なんだか急に嬉しくなって隣に座る光の肩にもたれかかった。

大阪駅について立ち上がろうとすれば繋がれた右手が思い切り引かれて、その動きを阻まれてしまった。
「大阪やで?」
「知ってますよ。」
「降りひんの?」
「三ノ宮まで行きます」
「なんで?」
「神戸行こうと思うんで」
「なんで?」
「なんでもええやろ」
三ノ宮につけば歩いて神戸港まで行き、ベンチで港の景色を眺めながらテイクアウトしたハンバーガーを食べ、そのあとは港脇にあるモールに入っているカフェに入った。

久しぶりの大阪を楽しみにしていたから突然神戸まで連れてこられて驚いたが、これも悪くないと思いながらストローを啜った。
夕方になってもこの時期はまだまだ明るい。大きな窓から見える港と青い空を眺めながらそんなことを思った。
港に続々と人が集まってくる様子が見える。何かイベントでもあるんだろうかと見ていたら、光がそろそろ行きましょうというので私はそれに従った。

港へ向かう人波を逆へ掻き分けて三ノ宮から山の方角へ歩き続け、異人館街まで来た頃にはすっかり日も暮れてきた。
異人館街は何度か来たことがあるが、いつきても異国情緒溢れる街並みに心躍る。
ヨーロッパ風の建物が軒を連ねる中で、少し奥まったところに鳥居がある。洋風の街並みの中では一際異彩を放っている。
鳥居から伸びる長い階段を登り切ったころには息も切れ、それを見た光に笑われてしまった。
港から比べるとかなり標高の高いところにあるこの神社からは神戸の街並みを一望できた。
「うわ…すご…」
「ええやろ?」
「うん。ほんま。」
得意げにしてる光は息一つ切らしていない。
「もうすぐやで」
「なにが?」
「花火に決まってるやろ」
光が言い終わる前に、大きな音と共に遠くに見える港に一輪の花が咲きあがった。

小さな神社の境内で二人並んで遠くの花火を見る。私たちの方が山側にいるから、港に浮かんだ船から打ち上げられる花火は私たちの眼下に広がり、水面に反射している様子も僅かながらに見える。まるで空から舞い降りた花が次々と水たまりに溶けて消えていくように見える。
「すごいね…」
少しずつ派手さを増していく花火を見ながら呟けば、隣にいた光が真剣な表情でこちらを見つめてくる。
「まだ白石部長んこと好きなんすか?」
「え?」
遠くで鳴り響く花火の音は絶え間なく続く。
「昔振られたって言うてたの。部長っすよね」
「なんで…」
打ち上げる数が増え、ドンドンドンッと立て続けに響いた後にパラパラと弾け飛ぶ音が静かな境内に響き渡る。
ドキドキしているように感じるのは、内臓まで響いてくるような音を轟かせる花火のせいだ。
「ねえ。まだ好きなん?」
「光。」
いっそこの際、光に全て委ねてしまってもいいのかもしれない。
きっとこの後輩は優しいから、私の突飛な頼み事だって聞いてくれる。
「…忘れさせてくれるんやろ?」
私が放った言葉を聞いて一瞬目を見開いた後に思いきり顔を顰めて目を反らした光は、次に目が合った時には厳しい表情で私を射抜いてきた。
無言で手を取り歩き始めた光は、いつもと少し違って私にペースを合わせることなく足早に歩を進めていく。その手は指先が絡むことなく、ただ掴まれて引かれているだけだ。
その間も港方面からは打ち上げ花火の音とそれを見る見物客の拍手が微かに聞こえる。

神社を下ってから、街へ向かう通りを歩いている途中に少し脇へ逸れると鮮やかなネオンが立ち並ぶ一角が突然現れた。

「逃げんなよ」
部屋に入るなり低く呟いた光は私の首筋に手を添えて、全身を包み込むように頭上からキスを降らせてきた。今さら逃げるわけないのに。
差し出された舌が表面をすり合わせるように私の舌を犯してきて、舌先を光の口に含まれたと思えば口の中でも相変わらず彼の舌で弄ばれた。解放されたと思えば、またすぐに光の舌がねじ込まれてきて舌と一緒に口の奥まで吸い上げられるような感覚に身体中が火照る。

もつれる様に2人でベッドに倒れ込み、夢中で互いの熱を交換し合って、中途半端に服を乱しあった。
光のシャツの前を少しはだけさせて隙間から手を差し込んで厚い胸から背中に手を這わせれば、光の手は私のキャミソールを乱暴にたくし上げて首筋に頭を埋めながら脇腹を何度も往復した。
その手付きに堪らなくなって彼の後頭部をぎゅっと抱きしめれば、その手は胸に辿り着いて優しく包み込んできた。
柔らかい刺激がもどかしくて自分の太ももに感じる熱い膨らみをそっと膝で刺激すれば、吐息を漏らした光の手付きが強くなった気がした。

「椿先輩」

私の胸元から顔を上げた光に呼ばれて、声がした方に視線を向けると物欲しげな瞳とぶつかったから。
何も言わずに両手で彼の顔を引き寄せてもう一度深いキスをした。
それが合図になったように、私たちは身に着けていた全てを手早く取り払って、早急に身体を重ねる準備を進めた。
愛撫という愛撫もないままに、私の脚の間の熱いものが自分の身体の中に入ってくるのを感じながらふと遠くに見えた時計は21:32を示していた。






[ 12/18 ]

[prev] [next]
[list]

site top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -