6years | ナノ



SH2 冬_


【1:57:24】

12月31日。
12月29日から2泊で今度こそ大阪に行こうとみつきと計画していたのに、日本全国で大雪、東京でも雪が降り、交通機関が麻痺してしまったせいで結局どこにも行けず東京の家でダラダラ過ごす羽目になってしまった。せっかくみつきと会えると思って楽しみにしてたのに。
大晦日の午後はこっちの友達と一緒にカラオケに行ったりランチを食べたりして遊んでいたが、夕方前にはみんな自分の家に帰り家族と共に年を越す支度を始めた。

年末休み独特の雰囲気の中、私はただ自分の部屋に籠り、スマホを弄りながらイヤホンを耳に差して音楽を聴いていた。
そういえば去年の冬は光が突然こっちにきて一緒に買い物してたな。良いヘッドフォンをつけたらこの音楽も少しは違って聞こえるんだろうか。
大阪に住んでいた頃は31日の夜には近所のお寺がつく鐘の音が鳴り響いていたのに、東京ではお寺の鐘なんて聞こえない。下町の方にでも行けば少しは違うんだろうけど、今いる地区にはそんな風情はない。だから私は代わりに流行りの音楽をイヤホンで流す。

スマホのフォトライブラリをスクロールしながら1年を振り返れば、現れたのは神戸で撮った写真たち。
遠くに見える神戸の港を彩る花火、山の中にある見晴らしのいい境内、異人館街の欧州風建築、港から見た夏の青空。あの日のことは今でも私の中で消化不良のまま残り続けている。後輩の真意が分からなかった。直接聞く勇気もなく、今まで通りテキストのやりとりだけが日々進んでいる。

夢中になって画像を振り返っていると気が付けば、去年の冬の写真まで遡ってしまっていた。
2つ並んだカフェモカの写真、万世橋、不忍池、代々木公園、夜の東京駅。
クリスマスシーズンの丸の内は凄く綺麗だった。冷たい空気に包まれて歩いた時間を思い出せば心が温まる気がした。
1枚1枚全画面表示でテンポよく右に流していけば、夏の全国で試合に出ている光を撮った写真に辿り着く。
相手の不意を衝くプレイスタイルに目を奪われたのをよく覚えている。相手の隙を見逃さず、計算し尽くされた攻撃で着実にポイントを重ねていく姿に見惚れて思わず写真を撮ってしまっていた。

さらに遡ると中学の卒業式で撮った写真が数枚。ごく一部の子にしか引っ越しを伝えていなかったので、あまり皆で沢山写真を撮るようなことはしなかった。
校門の前で両親と3人で撮ったもの。同じクラスの子たちと教室で撮ったもの。みつきと二人だけでテニスコートで撮ったもの。女テニのみんなと部室で撮ったもの。光に頼まれて一緒に廊下で撮ったもの。
左から右にスワイプしながら、どんどん懐かしい気持ちが溢れてくる。感傷に浸りながら写真を見ていると、不意に現れた1枚に画面を撫でていた指が止まる。

ダッサ…。
パツパツのショッキングピンクのユニフォームに身を包んでポーズを決めている白石。
この時も楽しかったな。もう2年以上経つんやね。
何度見ても滑稽なその姿に思わず笑みがこぼれる。

今頃何してんねやろ。
高校男子テニスの試合で時々「大坂四天宝寺高等学校」の名前を見るたびに、勝手にドキドキしていたが、結局1度も試合を観に行くことはしなかった。
きっとそこには白石がいて、謙也や小春とユウジもいたんだろうな。
ノスタルジックな気持ちに浸った勢いで、白石に電話をかけてみた。年末やし、どうせ気付かへんやろ、そんな軽い考えだった。

3,4回コール音が続いて、やっぱり切ろう、そう思い直してスマホを耳から話した時に、コール音が途切れ、通話時間のカウントが画面に表示された。
驚いて再びスマホを当ててみれば、『もしもし?』と呼ぶ声が聞こえる。
「あ、もしもし。白石?」
『おう、どないしたん?』
「いや、なんとなくな。スマホで昔の写真見てたら懐かしくなってもーて。急にごめん」
まさか出るとは思ってなかったから、急に居心地が悪くなってしまった私に、白石は笑いながら『別に構へんよ』と言う。
数年ぶりに白石の声を聞くと、なんだか昔に戻ったような気がする。
「デート中やなかったん?」
『なんやそれ、大晦日にデートする奴がおるか』
相変わらず笑っている声を聞けば、緊張で高鳴っていた鼓動も少し落ち着いてきた。
「大晦日といえばやっぱ年越しデートちゃうん?」
『どこの文化圏の話してんねん。そもそもデートする相手もおれへんわ』
その言葉を聞いて何故か安心してしまう自分がいた。そんな安心、なんの意味もないのに。
『椿は?デートとちゃうん?』
「ちゃうから、こやって白石に電話かけてんねやろ」
『椿のことやからな、何しでかすか分からへんで』
声を出して笑う白石に、私のことなんやと思ってんねんと抗議する。
謙也の新しい消しゴムむっちゃキモいねんで、あの消しゴム実はあのおばちゃんの店で買うてるんやて、謙也のためだけに仕入れてるんちゃう?、中2の時の担任は今年度で辞めるんやで、結婚しはるんやて、オサムちゃんは結婚せえへんのかな、無理やろな、確かにな、ーーー…。
どうでもいい会話が懐かしくて、楽しくて、ふと本音が口をついてしまった。
「会いたいなあ」
ほんの一瞬の間の後に白石はすぐに「じゃあ…」と続けた。
『俺が今からそっち行くのもええけど、もっと良い方法あるで。』
「え、なに?」
『来年の公式戦や』
『絶対、関西勝ち抜いて全国まで行くから、その時は椿に来て欲しい』
その白石の言葉に私は、「うん、わかった」そう答えていたような気がする。
その後も私たちは何でもない会話をしばらく続けた。2時間ほど話していたと思う。
下の階からお母さんが私を夕飯に呼ぶ声が聞こえてきて、通話は終了した。





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