6years | ナノ



SH1 冬_


【東京18:48発新大阪行き】

AM10:17
「光行きたいとことかないん?」
「あー…ないわけやないっすけど」
「どこ?」
「コンピューター関係のショップとか、あとはCDショップとかっすけど。でも先輩つまんないと思いますよ」
「超ショッピングやん。」
観光せえへんのかいと突っ込めば、それは先輩が案内してくれるんやろ?と言う。
「ってか私がつまんないかどうかはどうでもええねん。光の行きたいとこ行こ。観光はそのあとな。」

元はと言えば昨日の夕方突然電話が掛かってきたことがきっかけだ。
「もしもーし」
『松枝先輩?』
「はーい」
『明日ってなんか用事あります?』
「なんもないで」
『じゃあ、10時15分東京着の新幹線で行きますんで』
「は?」
『よく分かんないっすけど、新幹線の改札出たとこいてもらってもいいっすか?』
「ちょ、待って。は?」

朝起きてベッドの中でSNSをチェックしていたら、光が新幹線の車内の写真を限定公開であげているのを見つけ、あぁ本当に来るんだ、と考えていた。
そこからはあっという間で、簡単に朝食を済ませ、よく歩くだろうからと思い先日下ろしたばかりのスニーカーにスキニージーンズを合わせた。そして私はスマホで電車の時間を調べ、10時すぎに東京駅に着けるよう家を出た。AM9:32

光の買い物に付き合うのはつまらないどころか、かなり楽しかった。
埃っぽくて狭い店内に無理やりねじ込まれた陳列棚には隙間なく色々な機器が並べられていた。
狭い通路を体を横にして移動しながら、光にこれはなに?あれはなに?と幼子のように聞けば、彼は嫌な一つ顔せずのそれぞれの機器の役割を丁寧に教えてくれた。
光の説明を聞いてもピンと来ないものも沢山あったが、一生懸命説明してくれる光の話を聞いていると少し詳しくなったような気になった。
光は色々悩んで結局ヘッドフォンを買ったようだった。彼が言うには、ヘッドフォンの質によって音楽が全然変わって聴こえてくるらしい。私には分からない世界だけど、ヘッドフォンによってそんなに変わるなんて、音楽はなんて夢のある世界なんだろう。
東京に引っ越してもうすぐで1年になるが、ここにはまだまだ私の知らない面白い世界を持つお店が沢山溢れている。PM1:16

光の買い物が済んだ後は、遅めの昼食をとってからまずは主要な観光地を回った。東京から神田を経由し秋葉原に移動して買い物をしていたので、そのまま上野まで歩きそこからは地下鉄に乗って表参道まで行き、裏原宿を散策しながら明治神宮まで行った。
裏原では色々なアクセサリーショップに入って、どのピアスが光に似合うだどうだなんてはしゃぎながら歩いた。
明治神宮を見た光は四天王寺のほうがええやろと溢していたが、四天王寺と比べるべきは浅草寺だ。そして浅草でスカイツリーを見たらきっと通天閣の方が良いとか言い出すに違いない。今日は時間がないからそれはまた次回にしよう。PM4:23

「そろそろちょっと休憩せえへん?」
「ええっすよ」
私たちは竹下通りを抜けた先にある狭い小路にある小さなカフェに入った。
ここはあまり人も多くなくて私のお気に入りの場所だった。カウンター席が4つと、カウンター側に向かうように窓枠を利用したソファ座席が一続きになって、沢山のクッションが置いてある。
お店に入るとカウンターにいるお客さん1組のみだったため、私たちは窓側のソファ席へ案内された。2人で並んでソファに座れば疲れがどっと押し寄せてくる。
飲み物を頼んでからは、互いの学校生活について色々と話した。ふと時計を見ればカフェに入ってから1時間近く経とうとしていた。
「…なんでこっちでテニス部入らんかったんですか」
不意に聞かれて何故かドキッとしてしまった。テニス部という言葉を聞くと、鼓動が早くなるような気がする。
「分からへん」
光は大きなため息を1つ吐いて、もうそろそろ出ます?と聞いてきた。
テニスを続けなかったことにこれといった理由があるわけでもないが、テニスは中学まで終わりで良いと思っただけだった。勉学に打ち込もうと思った、それだけだ。
でも、物心ついた時からずっと続けてきたものをやめても、私の何かが変わることはなかった。

カフェを出るとすっかり日も暮れて、風が一層冷たく感じる。
日中は陽が出ていたから然程寒くなかったものの、陽が沈んだ途端急激に冷える。PM5:30
光の手が温かいことを私はもう充分知っているから、そっと手を握ればしっかり握り返してくれる。その温かさに思わず上がってしまう口角が少し恥ずかしくて空いた左手でマフラーの位置を少しだけ上げて、彼にそっと近付いた。

再び明治神宮前まで向かいそこから地下鉄に乗って私たちは東京駅方面へ向かい、二重橋前で降りて新幹線の時間まで東京駅付近を歩くことにした。PM6:02
皇居から東京駅前まで、丸の内の街路樹は軒並みクリスマスムードですっかりライトアップされている。手をつなぎながらイルミネーションの中を歩いているとなんだか恋人同士みたいな気分になってこそばゆい。

「光」
彼の名前を呼べば、なんすか?と答えてくれる。
「今日、楽しかったな」
私がそう言えば、そうっすねと答えてくれる。
「ねえ、椿先輩」
「んー?」
「今日、来てよかったっす」

「楽しかった?」
私がそう聞けば、はい、と言ってくれる。
その後に今日はありがとうございました、と小さい声で彼が言う。

東京のイルミネーションの前では、この後輩も少しは素直にならざるを得ないんやね。





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