6years | ナノ



SH1 夏_


【件名:8月19日、午前8時集合。】

[うちはシードなんで、先輩は昼頃に来てくれたらええと思います。会場着いたら連絡ください。迎え行きますんで。]

半分冗談半分本気で、全国観に行こうかなーと送れば、すぐに返信が来た。
部活に所属せず、アルバイトもしていない私には夏休みの予定も特になく、財前がそういうなら行ってもいいかなという気持ちになっていた。
その日の晩にご丁寧にメールで大会の会場や日時が書かれた要綱を添付して送ってきてくれた。
それを見ると去年女テニの試合があった会場で開催されるらしい。もう、1年か。

着いたら連絡するように言われてはいたけど、去年自分の試合をやった会場くらいは覚えているから自分で直接応援席まで行こう思い、そのまま歩みを進める。
全国大会常連校の色とりどりなユニフォームを見ると、試合会場に来た実感が湧いてどきどきする。
応援席の一角に明るい黄色と緑のユニフォームを発見して、懐かしい気持ちが込み上げてくる。
思わずこぼれる笑みを抑え込んで、駆け足でその集団のもとへ急ぐ。
現3年生の中には財前の後に遅れて入ってきた子も多く、見知った顔もちらほらある。四天宝寺の制服を着た女子もおり女テニの後輩たちかと思ったが、私の知らない子たちだった。今年の女テニは全国まで届かなったと聞いていたため、応援に来ているのかと一瞬期待した。
それに、もしかしたら、という別の期待が私の中にはあった。
今は夏休み期間中だから、東京の会場にくることは不可能ではないはずだ。

応援席の一番後ろの端っこの座席に見慣れたスキンヘッドを見つけて嬉しくなった。私は通路を挟んだ端の座席に座り、体を通路側へ向けて彼に話しかけた。
「久しぶりやね」
「松枝はんやないですか」
驚いた表情を浮かべる銀に、財前に呼ばれてんと言えば頷いてくれた。
「同期は…銀だけなん?」
「せやな。謙也はんと白石はんは医療系の夏季講座があると。小春はんと一氏はんはなんやネタの打ち合わせや言うてはりましたな。千歳はんは、分かりまへんな」
「まあ千歳はね…」
そう言って周りを見渡せば、屈伸をしている遠山くんと目が合った。
「松枝のねーちゃん!!!!」
彼はストレッチを中断してこちらへ駆け寄ってきてくれるため、私も一旦立ち上がって彼に手を振る。
「来てくれたの、ねーちゃんと銀だけやで!!」と言って嬉しそうに破顔している。
「遠山くん、久しぶりやね」
その表情につられてこっちも笑みがこぼれて彼のフワフワな髪の毛をぽんぽん撫でてしまう
「ワイ、今年は絶対試合出て、勝ったんねん!!」
ニコニコして、忙しなくて、ほんまわんこみたいな子やな。
「金ちゃん、はよアップしてこい」
後ろから聞こえた低い声の主を見ると顔を顰めている。
「うおっ財前っ!ほなねーちゃん、またあとでなー!」
颯爽とかけていった遠山くんを見遣れば、不機嫌そうな財前が私を通路から1つ奥側の座席に押し込んでくる。
「俺、着いたら連絡しろって言いませんでしたっけ」
ご機嫌斜めな後輩は、はあ、とわざとらしいため息をついて先程まで私が座っていた端の座席に座る。
「んー、そやったっけ?」
私もとりあえず財前の隣に腰を下ろしつつ、しらばっくれれば思い切り睨まれてしまったので素直に謝った。
「だって、この会場来たことあったんやもん。ここだってすぐ見つかったで。」
このユニフォームってほんま目立つよなーとファスナーが開けたままにされている彼の上着の端っこをヒラヒラさせて言えば、もう1つため息を吐かれた。
「遠山君って、わんこみたいやない?」
と聞けば、はあ?と言われてしまった。あまりにも不機嫌すぎてこっちが笑ってしまいそうになる。
「あんなんただのゴンタクレやないっすか」
「その割には結構手懐けてへん?」
やるやん財前部長、と肘で小突けば露骨に嫌な顔をする。
その反応を見て、2年になったばかりの頃みつきが白石のことを部長と呼び始めた時のことを思い出した。

隣に座っていた財前がすっと席を立って、通路の階段を降りていく。
光!少し大きな声で呼び止めれば、その脚がぴたりと止まる。
「オーダーは?」
「S1っす」
一瞬振り返ってまたすぐに階段を降りて部員たちの方へ向かう彼の背中をぼーっと眺めた。
なんや、財前も立派になってもーたな。





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