短編 | ナノ



時速75km/h_


[桜木町駅前のプロント]

たったそれだけのメッセージで、迎えに来いとも何も書いていないのに私は仕事終わりに桜木町へ車を走らせる。
近くのパーキングエリアに車を停めて仁王に連絡をすれば、私の車へ向かってくる銀髪がサイドミラーに映り込む。
「おつかれさん」
助手席に乗り込んできた仁王がご丁寧にテイクアウトのコーヒーを渡してくる。
「ありがとう」
受け取ったカップをドリンクホルダーにおいてシフトレバーを操作する。

助手席の仁王を盗み見ると肘をついて窓の外を眺めている。
この男が何を思ってるのかなんて、誰に分かるんだろう。
「ねえ、仁王」
「んー?」
「今晩、何にしようか」
「んー…」
しばしの沈黙。
適当に流していたプレイリストから知らない国のジャズソングが流れてくる。
赤信号で一時停止する。目の前の横断歩道には仕事終わりのサラリーマンたちが忙しなく行き交う。

「おまんかの」

仁王の言葉の意味が分からなくて思わず彼の方を振り向いても、視線はずっと外に向けられたまま交差しない。

「青じゃよ」

その言葉にはっとして前を向き、急いでブレーキペダルから足を離すと再び車が動き出し、スピードに乗り始める。

「おまんが欲しい」
仁王がこっちを向いたのを視界の端に捉える。
車が動き出して私がよそ見出来なくなったタイミングで、そんなこと言ってくるなんて。

高鳴る鼓動を鎮めるために少しだけアクセルを踏み込んだ。






▽窓の外を見ているようで実は窓に写りこむ運転席を見ていた仁王さん。
外国の曲はParis ComboというアーティストのFibre De Verreという曲を勝手にイメージしていました。セクシーな女性ボーカルが特徴のジャズ風の曲です。大人な雰囲気で素敵な曲。



[ 36/68 ]

[old] [new]
[list]

site top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -