短編 | ナノ



1月第2月曜日_


高校2年生の8か月間だけ付き合っていた恋人。白石。
私にとっては初めての彼氏で、何もかもドキドキの連続だった。
白石の部活がオフで私の塾がない日だけ一緒に帰って、稀に予定が合えば休日にカフェに行ってお喋りをする。高校生の私たちはそれだけでも幸せいっぱいだった。
付き合って2か月くらい経って初めてキスしてくれた時も嬉しくて仕方なかった。

でも部活や勉強に忙しくなって半年を過ぎた後くらいから、すれ違いばかりになって。
気が付けばあれほど毎日送り合っていたLINEも1、2週間に1往復。
結局私たちはあっさり別れた。

20歳の冬。成人式の後高校の同窓会が開かれた。ホテルの1階にあるレストランで立食形式のパーティー。仲が良かった女子グループと集まって、お酒を飲む。

お酒なんか飲まなくても毎日くだらないことで笑って、馬鹿みたいな話ばかりしていた私たちは、今はお酒を飲みながら大学の課題や、互いの彼氏の愚痴などつまらない話しかできない。
大人ってつまらない。

その時ふと目が合った。遠くのテーブルにいる白石は男ばかりの集団に混じっている。
男たちはお酒を飲んでもああやってくだらない話で笑い合えるんだ。
視線を逸らすとグラスを片手に持った3人の女の子がそこのテーブルに向かうのが見えた。
やっぱり、大人ってつまらない。

「少し外の風に当たってくるね」
そう言えば、同じ卓の女子たちは「えー、もう酔ってもうた?」「少し醒ましといでー」。
こんな薄いお酒で酔えるわけないのに。
ハンドバッグを持って同窓会会場の外に出ると、冬の冷たい空気が肺に入り込む。
「はあ」
一つ大きいため息を吐く。
「随分お疲れやな」
ホテルのロビーから出てきた白石に声を掛けられる。
こうして2人きりで話すのは、3年前の別れ話ぶりだ。
「白石も休憩?」
「まあ、そんなとこや」
あの時視界の端に捉えた3人の女の子たちは今頃さぞ残念がってるだろうな。
2人並んで冬の風に当たる。
「せや。成人、おめでとう」
「白石も。おめでとう」
二人してこんな事を言うのが少し可笑しくて笑みがこぼれる。
「成人かあ。俺らももう立派な大人やな」
「せやね」
「あれから随分時間経ったよなあ」
白石のいうあれからというのはきっと、私たちが付き合っていたあの頃を指すのだろう。
「せやね」
「俺たち、子どもだったよな」
「まあ、高校生やったし」
「でももう大人やろ?」
そう言った白石の表情は記憶の中の彼よりも大人びて見えた。
色気を含んだ声に視線が外せなくなっていると、白石の左手が私の頬に添えられる。
段々近くなる彼にそっと目を閉じて触れた唇の温もりは、昔よりもずっと熱くてほんのりアルコールの香りがする。
私たちは再会して10分も経たずにキスをしている。初めてのキスは2か月もかかったのに。
お互い夢中になって唇を重ねていたら、外に出てきた数名の同級生に見つかってしまった。
ぱっと離れて顔を見合わせた時の白石の顔は、3年前には見たことがない表情を浮かべていた。

私たちは手をつないで逃げるように同窓会会場を後にして、そのまま夜の街へ駆けていった。
ホテルに入って、シャワーを浴びて、体を重ね、白石の腕の中で朝を迎えた。
「…大人になってもうたな」
昨晩と似たようなことを呟く白石。
大人なんて、つまらない。
あの時は8か月かかっても触れることのできなかった白石の素肌にそっと手を這わせる。
これなら時間をかけてやっと出来たあのキスの方が何倍も良かった。

「また同窓会で会おうね」
そう言って私たちはお互いの恋人のもとへ帰る、20歳の朝。





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