短編 | ナノ



迷い猫_


フラフラとキッチンに来て調理中のフライパンを覗き込む。
「今日は何かの」
「生姜焼き」
「ええの」
冷蔵庫からペットボトルを取り出してソファに戻っていく。
通り過ぎる時、チラリと見えた首筋には赤い痕がうっすら残っていて、またか…と思う。
ほんと、懲りない男だな。

ダイニングテーブルに向かい合って座り、同じメニューの食事を摂る。
決めたわけではないが、いつからか仁王が来た時は必ず肉料理を作るようになっていた。
別にそんなことしなくたって良いのに、彼は必ず食後に洗い物をしてくれるから私もそれに甘えてその間にシャワーを済ます。
「出たよ、仁王も浴びてきな」
「ん、」
彼がシャワーを浴びている音を遠くに聞きながら、ソファに座りテーブルの上にラップトップを開いて仁王を待つ。

もう顔も覚えていない、昔の彼氏が置いていった部屋着を着た仁王が出てくる。
「ねえ、髪の毛ちゃんと拭いたの?」
「そのうち乾くじゃろ」
こっち、呼べば素直にやってくる。仁王を床に座らせて私はソファに座って彼の髪の毛をブローする。私と同じ香りが温風に吹かれる。
髪の毛を乾かされている間、仁王は目の前に置かれた私のラップトップを操作して前回来たときに見てた海外ドラマのページを開いた。
気持ちよさそうに首をもたげる仁王の首筋に骨が浮く。男性の割に薄いのに案外筋肉が付いていて、実は近くで見ると広い背中。
「終わったよ」
「あんがとさん」

仁王が来た夜は必ず一緒にソファに並んでドラマを見る。そして続きのドラマを2話分だけ進めて、ベッドに入る。それが夜のルーティンだった。
ちょうど2時間が経過し、寝る支度をしようとラップトップを閉じて、飲み物を入れていたグラスを片付けるためにソファから立ち上がると仁王も一緒に付いてくる。

「俺がやるき、歯磨いてきんしゃい」
洗面台で歯を磨いていたら、洗い物を終えた仁王もやってきた。うちに置きっぱなしの歯ブラシを手に取り、二人で鏡の前に並んで歯磨きをする。
口を漱いで、お手洗いを済ませて。
「じゃ、寝るよ」
「ん、」
シングルベッドは二人で寝るには少し狭い。
一緒にベッドに潜り込めば示し合わせたように仁王の腕が私の首元に差し込まれるから、私も仁王の背中に腕を回して、二人で向かい合って眠る。

気が向いた時に気まぐれにうちへやってきて、一緒にご飯を食べて、ドラマを見て、一緒に眠る。ただそれだけの関係。
だけど、仁王が来た日はいつもより良く眠れる気がする。





▽年上おねーさんと仁王
気が付けば結構な頻度でやってくる仁王くんをお世話するおねーさん。
お互い適度に無関心でいるのが、また居心地がいい。
いつかベロベロになってやってきた仁王がおねーさんに秘めてた想い打ち明けたりしちゃう?



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