短編 | ナノ



white wedding_


初めて男の人と付き合って、初めて人を好きになって、初めて心が砕け散るくらい苦しい思いをして、初めて枯れるほど泣きつくした。

私の初めてをすべて掻っ攫っていった人。

別れてから3年経った時に「やり直そう」って差し伸ばしてくれたその手を子供染みたプライドが邪魔をして拒んでから、さらに数年。

ただの一度も忘れたことなんてなかったし、毎晩と言っていいほど彼を思い出した。
彼氏に抱かれている時だって、彼を思い出した瞬間は一度や二度じゃなかった。
彼の影を求めて街を歩いたし、同じ柔軟剤の香りが不意に漂う度に振り返った。
寂しさを埋めるために沢山の人と出会った。

いざ久しぶりに連絡を入れても「ごめん、残念やけどその日は予定入ってんねん」って。

その内容の真偽は分からないけれど、それはもう二度と私と会うつもりはないというメッセージ。
一度目の別れ際に「俺はずっとお前が戻ってくるの待ってんで」って言っていたくせに。
「何があっても、お前の事は絶対忘れられへんと思う」ってさ。

私はそんな自分にとって都合のいい言葉だけを切り取って記憶している。

自分が彼に投げ掛けたナイフのような言葉はすっかり忘れてしまっているのに。
私の言葉が彼を酷く傷付けた事だけは覚えているけど、その内容は覚えていない。
つくづく虫のいい話だとは思うけれども。

彼が戻ってくるのをずっと待っているのは私の方で、何があっても忘れられないのも私だった。

口では「もう連絡もしてこないで欲しい」なんて言ったくせに、いつまで経っても連絡を待っているのは私の方で、「また連絡してもええか?」と言っていた彼はただの一度も連絡をしてこない。

「別れた後も好きでおってええ?」と聞いてきた彼はもう私の事なんか好きじゃないのに、彼の言葉を無視した私は今でも彼の事が忘れられない。

初めからもっと素直になれればよかったのに。
次に会った時は素直に自分の気持ちをすべて打ち明けよう、そう何度も心に誓っては、恰好つけて素直になれずに恰好悪い結果を招いた。

いつだって素直な気持ちを私にぶつけてきてくれた彼はいま別の女の子と寄り添っている。

彼のために仕立てられた白が揺れる。

どうかそのまま、せめて君だけは幸せであれ。



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