短編 | ナノ



税込400円の優しさ_


「彼女出来たわ」
いつものようにファミレスで向かい合って400円の安いパスタとピザ、そしてポテトを分け合う。
「へえ」
いつも通り、家に帰る頃にはいったい何を話していたのかも忘れてしまう程下らない雑談をしていたはずなのに。
突然、それも、なんの兆候もうちに放たれた財前の言葉は正しく“不意打ち”。
「は?そんだけなん?」
眉をひそめて乱雑にポテトにフォークを差した財前が黙々と食べ続けている。

おめでとう、って言って欲しいわけ?それでわざわざそんな報告してきたのか、この男。
無性に腹が立った。
財前が一人で食べ続けているポテトの皿にフォークを突き刺して、イライラした気分のまま油っぽいジャガイモを頬張った。付けすぎたケチャップの酸味が鼻につんと来る。

どうせもうこうして向かい合って安物のイタリアンを食べることもないんだろうし。
今更何を言っても別にいいだろう、そんなやけくそな気持ちだった。
そもそもなんでこんなにイラついているのか自分でもよく分からない。
財前に彼女が出来た事に対してなのか、それをわざわざ対面で報告してくることなのか、今後こうして二人でファミレスで駄弁ることができなくなってしまうことに対してなのか。

「うーん…、財前は私と付き合うもんだと思ってた」

「は?」

ポテトからピザへとターゲットを変更した財前の指先が一瞬揺れたような気がした。

「だってうちらいっつも一緒にいるじゃん。なんならもう彼氏かなーくらいの感じだったし」

「お前、誰とも一緒になりたくないって言うてたやろ」

確かに。だいぶ前サークルの先輩に告白されたことをこのファミレスで報告した時にはそう伝えたけれど。
あの時そう言ったのだって財前がいることが前提だったわけだし。
でも今さらその時のことを蒸し返すのも面倒で、適当な相槌だけ返す。

「まー、たしかに?」
「なんやそれ」
ピザを切り分けた財前が1切れ持ち上げて私の取り皿に乗っけた。
ベーコンが好きじゃない私のためにベーコンを避けた場所を選んでくれてる。
そのことに気が付いてささくれ立っていた心が少しだけ穏やかな気持ちになる。
財前は分かりにくいだけでちゃんと優しいとこもあるから好き。

「財前が彼女作ったんなら、私も彼氏作ろっかなー」
財前に彼女が出来た今、他の男と付き合わない理由も特にないし。
財前が構ってくれなくなるならごっそり暇になるから、誰か別の人が暇つぶしに付き合ってくれたら良いかも。
「それはあかん」
「なんで?」
「そもそも、お前と一緒におれるんなんて俺くらいやろ」
「は?舐めすぎ」
理不尽すぎるその言葉が何故か私の心を満たしたようで、生地の上にソースとチーズだけが乗っかったピザを頬張る私の口角は上がり気味。財前が言ってることは無茶苦茶なのに。

「じゃあさ、財前は私と付き合えんの?」
口の中のピザを咀嚼しながら、もう1枚のピザを取り分けている財前に聞いてみた。
「さあな。知らんほうがええこともあるんちゃう?」
ベーコンが沢山乗ったピザを口に運んだ財前は、氷が溶けきったウーロン茶でそれを流し込んでいた。





▽言葉が足りていない二人



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