短編 | ナノ



37.2_


無性に寝苦しさを感じて目が覚めた。
どれくらいの間寝てたのかは分からないけれど、随分長く寝てしまったような気がする。

隣で爆睡している男の腕からなんとか抜け出して枕元のスマホを引っ掴むと、あれからまだ1時間しか経っていなかった。

半ば気絶するように意識を手放して、そのまま眠っていたらしい。

暖房のついていない冬の部屋は驚く程寒い。

布団に包まれている部分は程よく温もりを持っていて、丸井と直接触れ合っている部分はまるで熱を持っているように熱い。外気に触れている部分の冷たさが余計際立つ。

体温高いのかな。子どもみたい。

しばらく黙って寝顔を見つけていても特に変化がなくてつまらない。

ほんの少しだけ名残惜しい気持ちを振り払ってベッドから抜け出し、散らばってる衣服の中から適当に拾った丸井のスウェットとくしゃくしゃに丸まっていた自分のTシャツに袖を通した。

ベッドを振り返ると、布団の形はまるでサナギから脱皮したみたいにすっぽりとそのまま私の形を残している。

きっと寒いだろうから。
そう思ってその膨らみを潰して、剥き出しの丸井の体を包み込んであげた。

リビングに転がった自分のバックの中からポーチを取り出して、カーテンを捲ってベランダの鍵を開ける。

カラカラと軽い音を立てて窓が開くと一気に冷気が全身に襲いかかってきて、ふわふわしていた意識が一気に覚醒する。

「うっわ。さむ」
思うず口を吐いて出た独り言は白いモヤになって空気中に漂う。

ポーチからライターと潰れかけた箱を取り出して、1本引き抜いて気が付いたことがある。

「あー、灰皿」

自分のアパートならいつもベランダに小さい缶を置いているのに。

「もう」

一度閉じた窓を再び開いて、すぐそこのローテーブルの上に放置されている大量の缶と瓶の中から、1つを適当に選ぶ。
それはまだ中身が半分ほど残っていそうな缶だったが、特に気にせずそれを手にして再びベランダへ出る。

この中に汚い灰が落とされる前に一口くらい飲んでやろうと思って缶を煽ってみた。

「まず」

もうこれでこの中に灰を入れることに何の戸惑いもなくなった。
ぬるくなった人工甘味料ほど気持ち悪いものはない。

口の中に残る嫌な甘さをかき消すためにも煙草に火をつける。

窓を開けたままカーテンだけしっかり閉めて、サッシの上に腰を下ろす。
お尻に刺さるアルミが少し痛い。

寒さで全身の筋肉が強張るような感覚になっても、どうしてもやめられ無いんだからこれはもう完全に中毒だ。

ちょうど月が南の空高く昇っているらしい。

厚い雲に隠されてその姿は見えないけれど、その雲の奥がぼんやりと明るく照らされていることから分かる。
月を隠しているのが空に浮かぶ雲なのか、私が空気中に生み出している煙なのか分からなくなるくらいに息をふーっと吐き出してみた。

溶ける煙が晴れても夜空に月は浮かばない。


「帰ったのかと思った」

私の身体の分しか隙間が開いていなかった窓が大きく開け放たれて、しっかり閉めたはずのカーテンがはためく。
いつの間に起きたんだろう。あんなに爆睡してたのに。ちゃっかりTシャツまで着ちゃって。

「えー。まだいてごめん」

「んだよ、それ。むしろ勝手に帰んなっての」

「まあ、ちょっと一服したかっただけ」

「びびらせんなよな」

「別に驚かすつもりなんかなかったけど。っていうか、そこ。閉めないと部屋の中冷えちゃうよ」

大きく開けた窓、薄いカーテンだけが部屋の中と外の空間を遮断している。
毛布から抜け出した丸井は今度ははためくカーテンに包まれている。

「さっさとベッド戻れば別に問題ねーだろ」

「先戻ってていいよ。すぐいく」

「信用なんねーからここで待ってる。早くしろよ」

「早くって言われてもな」

人差し指と中指の間に挟まれたソレを見せびらかすように揺らしながら息をはいたら、あからさまに嫌そうな顔をされた。

「まじ、可愛くねー女」

「まじ、やな男」

売り言葉に買い言葉

「ってか外さみいんだけど」

「窓閉めれば?」

「いや。いいから早くしろよ」

「もう、ほんとやな感じ」

まだほんの少しだけ吸う余地が残っているはずのそれを仕方なく甘ったるい液体の中に落として、立ち上がる。

剥き出しの両腕は冬の夜風に吹かれてすっかり冷たくなってしまった。

私が立ち上がったのを見て、背中を向けて再びベッドへ歩き出した丸井。
窓の鍵を閉めた私はその背中に抱き着いて、彼の身体に腕を回した。

「ねえブン太」

「んだよ」

「さむい」

「うわ。冷たすぎだろ、お前」

私の腕に手を重ねた丸井が大げさに身体をぶるっと震わせる。

「だからあっためてよ」

丸井だって風に吹かれていたはずなのに、彼の身体はベッドの中にいる時と同じくらい温かい。

ぎゅうぎゅうに腕の力を強めてその背中に頬を寄せ、丸井の熱を奪おうとしたのにいとも簡単に引き剥がされてしまった。

向き合った丸井は、温めてという言葉に反して私のTシャツを脱がして、くしゃくしゃに床に投げ捨てた。





▽どうしてもやめられないのはニコチンなのか丸井なのかというお話。



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