短編 | ナノ



特等席_


季節は秋。
入学してから半年も経てばこの生活にも慣れて、クラスメイト達への理解も深まってきた頃。

教室の一番後ろにある私の座席からは教室中の様子がよく見える。
それはそれは見えなくてもいいことまで何もかも。

「なあなあ、教科書忘れた!!」

「えー?」

「みーしーてー!」

そう言いながら隣の席にいるあの子の許可も取らず、一方的に机を横にスライドさせて2つの机を並べるようにくっ付ける彼の姿だって。

その彼のカバンの中には実は忘れたらしい例の教科書が隠されているのだって。

ここからは何もかもが丸見えだ。


「もー、また忘れてんかー。寝る前にちゃんとカバンの中入れるんやでってこの前言うたやろー」

「今日こそ入れたと思てんけどなー、おっかしーわー!」

「ほんま、金ちゃんはしゃーないなー」


しゃーないと言いながら二人の間に教科書をギュッと開いて広げるその子の表情だって。

へへっと笑い、おーきにー!と言っている彼の表情だって。

私の席からは全部ぜーんぶ、見えているんだから。

人知れず大きな溜息を吐いた私は自分のカバンの中から教科書を取り出して、一人分の広さの机の上にそれを並べ、ただ授業開始のチャイムが鳴るのを待った。




▽策士遠山、以前Twitterに上げたものに若干加筆しました。



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