短編 | ナノ



AM1:30_


ドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。玄関にはきれいに磨かれた靴が丁寧に揃えてある。私は電気もつけず少し乱暴に靴を脱ぐ。乱雑に散らばる自分のヒールを揃えもせず、そのまま侑士の部屋へ向かった。
私たちは互いにそれぞれのプライベートを侵さないような関係を続けていた。だからこうやって部屋の主の意思を訪ねないまま勝手にプライベート空間に踏み込むことなんてこれまで一度もなかった。いつ来てもええから、と去年合鍵を渡されてからも自らその鍵を鍵穴に差し込んだことは一度もなかった。

侑士の部屋の引き戸をゆっくり開けると、やはり彼はベッドで眠っていた。
サイドテーブルに置いてあったペットボトルを勝手に開けて水を一口含んでから、身に着けていたアクセサリーを全て外してそこに置いた。
髪飾りも、ピアスも、ネックレスも、腕時計も、指輪も、一つ一つ順番に丁寧に外して、まるで商品棚に陳列するように綺麗に並べた。そして、着ていたブラウスの首元に手をかけてから腕を上へ引き上げる。布から完全に顔を出したところでベッドからこちらを見ている侑士と目が合った。
いつから起きていたんだろう。
手元のブラウスをやけに丁寧に畳んでから、キャミソールを脱いだ。次に履いていたスキニータイプのパンツへ手を移動させ、そっとボタンを外し、ジッパーを下げた。片足ずつ慎重に引き抜いて、それもまた丁寧に畳んでブラウスとキャミソールの上に重ねた。
下着だけになった私は、侑士のいるベッドに身体を滑り込ませ、何も言わずにこちらを見ている彼の上に跨り彼の首元に顔を埋めた。
「なんや、えらい積極的やなあ。だいぶ飲んできよったやろ。」
「…どうだろう」
そういいながら私は彼の首筋にキスをして、寝巻のボタンを一つずつ外し始めた。
私は夢中になって侑士の上半身へ唇を寄せた。侑士の手がむき出しの私の背中を下から上へ、上から下へ撫でる。それが堪らなく気持ちよくて、私は身を反らし顔を天井へと向けた。いつもは冷静で決して揺らがない侑士の瞳が、行為の時だけ熱を孕むのが私は好きだ。顔を向けた先にあった侑士の顔は冷静そのものなのに、私の背中を漂う手には色が籠められ、頬をそっと包むように添えられた手の優しさとは裏腹に激しく口付けられた。私は彼の上に乗ったまま、首に手をまわし身体の密着度を上げ、どこが境目か分からないほどに私たちの身体は絡み合った。

何度も激しく絡み合って漸く熱が落ちついた頃、空は白み始めていた。カーテンの隙間から見える空はまだ暗いけれど、暗闇から少しだけ色が戻ってきていて濃紺のような藍色と橙色。
朝が来るまでこんなにも求め合い続けたのは初めてだった。重い身体をまだ熱の残るベッドに沈めた。侑士が私の肩を抱き寄せて、髪の毛を撫でる。これじゃあまるで恋人同士みたい。肩を抱いている手の先は私の指を絡めて離さない。優しく撫で続ける侑士の手の感触が微睡を誘う。
「起きたら、どっか一緒に出掛けよか。」
「今日は日勤じゃないの?」
「それ知ってて寝込み襲ってきたん?ほんま、しゃーないな…」
「でも、悪くなかったでしょ」
「とりあえず、今はゆっくり眠りや」
ほんま罪な子やなぁ。そうつぶやいた忍足の言葉は朝日に紛れて消えた。










▽成人医師たり。
この後すぐ同期に連絡して夜勤と日勤代わってもらっちゃうよ。
侑士は女の子にぞっこんだと思います。そもそもあの忍足侑士が合鍵渡すなんてそれもうプロポーズと同じじゃないですか。
フラフラしてる女の子をじわじわ侵食して忍足侑士のアリ地獄に招き入れようとしてると思います。もう逃がさない逃げられない。
実はこれ最初は柳生比呂士との絡み予定でした。アデュー



[ 19/68 ]

[old] [new]
[list]

site top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -