短編 | ナノ



いつもの朝_


4つセットで販売されている小さなみかんヨーグルトを二人で食べる。
3つセットのヨーグルトは端数が出てしまうから、私たちはどのフレーバーでも必ず4パックで1つのヨーグルトを買う。
3つセットのものを2つ買えばいいだけの事に二人とも気付いているが、私たちはあえてそんなことは言わない。
4つパックのものを半分にパキッと割って、それをさらに半分にして二人で食べるのが好きなのだ。食べる直前までは二つのパックが連なったまま冷蔵庫で翌朝を待っている。

二人掛けのダイニングテーブルに向かい合って座り、小さなパックを片手にスプーンでヨーグルトを食べながらコーヒーを飲むのが朝の日課。

「今日は早く帰れると思うよ」
二杯目のコーヒーを淹れるために立ち上がった彼がコーヒーサーバーを片手に戻ってくる。
「そう?良かった。夜、何か食べたいものある?」
「うーん、君の手料理が食べたいかな」
空になったマグにコーヒーを注ぎながらそう言う。
今日という日くらい、もう少し欲を出してくれてもいいのに。
「手料理なんていつも食べてるでしょ。せっかくの誕生日なんだから、何かもうちょとないの?」
「じゃあ…クリームシチュー。あっ、今日は冷えるみたいだよ」
スマートフォンを片手に朝のニュースを確認している彼はあくまでも手料理にこだわるらしい。
「もう…。じゃあ今晩はクリームシチューね」
「うん、ありがとう。楽しみだな」
ニュースを確認し終わったのか端末をテーブルに置いた彼は、こちらを見て微笑んでいる。

「じゃあ、そろそろ僕は出発するよ」
立ち上がった彼が3分の1ほど残ったコーヒーを一気に飲み干し、カップをシンクへ運んでいく。
ジャケットに袖を通している彼にコートを渡せば、ありがとう、とまた一つ笑みを浮かべる。
日によっては私の方が彼よりも先に出発しなければいけない朝もあるが、今日は彼の方が早く家を出るらしい。
こうして彼が忙しなく支度をする姿を眺め、少しずつ仕事用の装いが完成していく過程が好きだ。

バッグを手にした彼を見送るため玄関まで付いていき、腰を下ろして靴を履いている彼をぼんやり眺める。
立ち上がって準備を終えた彼がこちらに向き直り、私たちは向かい合うような姿勢になった。
彼はもう靴を履いていて私は一段上がったところに立っているため、身長差が縮まりいつもよりも近くに彼を感じる。
相変わらず彼は微笑みを浮かべている。なんだか今日は上機嫌のようだ。やはり誕生日だからだろうか。彼が笑っているのをみるとこちらも暖かい気持ちになる。
「せっかくの誕生日だから、君と二人きりで過ごしたいと思ったんだ」
おまけにそんなことまで言ってくれちゃえば彼への愛おしさがみるみる溢れて、それはふとした衝動へと転化される。
普段より近くにある彼の両頬を挟み込んで、ほんの少しだけ背伸びすれば容易に届くそこに口づけた。
目が合った彼は嬉しそうに笑っている。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
お返しとばかりに彼もまた私の頬を挟んで自分の方に引き寄せる。
全身に彼の温もりを受け止めて、また一つ大人になった彼を送り出した。






▽2021.2.29. 不二先輩、お誕生日おめでとう。
個人的にはホワイトソース作るの苦手なので、不二くんなりの贅沢レシピとして“手作りシチュー”でした。



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