短編 | ナノ



be my valentine_


「恋人ってさ、どんな感じなんだろうね」

ぼんやりと先程まで家で見ていたテレビを思い出しながら言った。
色とりどりの包装紙やデコレーションで飾られた商品が所狭しと並べられた映像が流れていて、多くの人が真剣な表情でそれらを吟味していた。

「突然どうしたんだい」

近所の図書館で向かい合って勉強していた周助が怪訝そうにしている。
日曜午前の図書館にいるのは私たちだけで、少しくらい話をしても怒られなさそうだ。

「なんとなく。なんかさ、この時期ってみんな恋人のことを考えてプレゼント選んだりとかチョコ作ったりするんでしょ?…それってどういう感じなんだろうなって」

インタビュアーが一人の女性に尋ねれば、彼女は恋人と初めて過ごすバレンタインに気持ちを躍らせているらしい。画面越しでも伝わるほど幸せそうな顔をしていた。

それに彼女だけではなく、その映像に映り込む多くの人は人ごみの中でも、皆どことなく余裕があるように見えた。
少なくとも先月頭の初売りの時とは大違いだ。
それが恋人を想うということなのだろうか。

「さあ、僕にもまだ分からないな」

目の前に座る彼は、参考書から顔を上げて首をかしげている。

「周助にも?」

意外な回答を向けてきた彼に、思わず聞き返してしまった。

「うん」

「へえ、なんか意外」

彼ならきっとこの世のことは何でもお見通しなのかと思っていたから、思ってもみなかった回答に少し拍子抜けした。

「どういう意味」

私の言葉に少しだけ不快そうな声を出している。

「周助にも分からないことあるんだなーって」

子供のころから何でも知っていて、いつも私の疑問に答えてくれていた彼の口が「分からない」と言ったのは初めてだった。

「…じゃあさ、一緒に確かめてみない?」

彼が徐に低い声を出して声をひそめて言った。彼の顔には笑顔が浮かんでいる。
まるで小さな子供がお母さんに隠れて秘密のたくらみを相談する時みたいだ。

でもこの人は一体何を言おうとしてるんだろうか。私と一緒になんて、何が出来るんだろう。
恋人のことを想うとはどんなものかという話をしていたというのに。

「なにを?」

先程の彼の言葉には目的語が欠けていたから、先ずはそれを補わなくてはならない。

「恋人のことを考えて過ごす気分」

相変わらず彼の顔に浮かんだ笑みは消えないままだ。
そんなことを言われても私はそれを確かめる方法を知らないから、やっぱりこれも周助に教えてもらうしかない。

「どうやって」

「簡単だよ。君が僕の恋人になればいいんだ」



▽be my valentine!! 僕の恋人になってよ。
Happy Valentine's Day, 2021<333



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