短編 | ナノ



鴛鴦_


「オシドリってね、実は季節ごとにパートナー変わるんだって」

「せやったら、おしどり夫婦なんて随分残酷な呼び方するもんやなあ」

「雄は繁殖期になると赤とか白とか緑とか金が混じる羽根になって雌を誘惑するんだってさ。それで交尾が終わったらすぐにいなくなっちゃうの。」



会社の先輩を通して出会った私たちには“読書”という共通の趣味があった。初めて会った時にすぐに意気投合して連絡先を交換した。
毎日のように連絡を取り合って、互いにお勧めの小説を紹介しては読み進めながら感想を送り合っていた。

[この前のやつ、ようやく読み終わったわ]

彼がそう言ったタイトルは前に勧めた時に「今度読んでみる」と言ったきり一度も話題にも上ってこなかったので、突然のことに驚いた。

[あれ読んでたんだ。どうだった?]

[結構時間かかってしもたけどな。これはちょっと会って直接話したいから今夜会えへん?]

突然の誘いだった。
今思えばそれまでのやり取りすらも私を誘惑するための美しい羽根だったのかもしれない。
実際に会うのはまだ2度目だったが、連日のメッセージのやり取りのお陰で私たちの間にぎこちなさはなかった。
すべて彼に仕組まれていたんだと思う。気が付けばホテルで熱いシャワーを浴びていた。
あぁ。あの人は先輩の友人なのに。最初はめんどくさい人と関係を持ってしまったと思った。

それから私たちは小説を1冊読み終わるたびに、感想交換会と称した行為に溺れた。

「侑士のやつとはうまくいきそうか?」
ある時例の先輩に声をかけられて何と答えればいいか分からなかった。
「さあ、どうでしょうか…」
「二人、結構相性良いと思うんだけどなー」
先輩の発言に「そうですね、身体の相性は最高です」と心の中で答えた。

ある時、侑士に勧められた小説の中でオシドリが象徴に用いられたワンシーンに出会った。
寒冷な土地にある大きな湖で二羽のオシドリがそこに浮かび、彼らが巨大な湖を支配して優雅に泳ぐ描写が何故か印象深くてどんな鳥か気になって調べてみたことがきっかけだった。


ベッドに押し倒されるや否や身体を反転させられて、後ろから耳を執拗に攻められた。
背中に感じる彼の体温や耳に直接与えられる刺激に思考が溶けていく。
「なあ…今回のはどうやった?」
「…んっ、あれね…っ」
「好きやったやろ?」
吐息が吹きかけられ、侑士の指が背中をツーーッとなぞる。
「はぁっ…!」
さざ波のような快感がゾワゾワと襲い掛かってきて、言葉を発する余裕もなく無心で頷いた。
耳の裏を舐められながら、後ろから回ってきた侑士の両手が私の胸の表面を掠めるように触れてくる。
一層密着するような姿勢になったことでお尻の辺りに強く当てられる熱を感じて、後ろを振り返ろうとすればそのまま唇を奪われてしまった。
何もかも飲み込んでいくような深いキスをされながら、侑士が下着越しに腰を緩々と動かして熱を押し付けてくるとまるで本当に挿入しているかのような感覚に陥る。
私の胸の辺りを這っていた手が徐々に降りてきて、不意に背中にあった温もりが離れていったと思えばそのまま下着を下ろされた。

後ろで侑士が準備を進めている気配を感じながら、私は小説の中で読んだ湖に浮かぶ二話の鳥を思い出していた。
冷たい湖に浮かびながら、共に寄り添って静かな波に流される二羽のオシドリは、まるで今の私たちのようだ。流れるように身体を重ね合って冷たいシーツの上で熱を交換し合う。
腰をグッと掴まれて後ろから熱を充てがわれるとその先の快感を期待して身体が疼く。
「あぁ…っ!」
私の中に押し入ってきた侑士を感じて待ち望んだ快楽に全身が痺れる。

「はぁ…っ、敵わんわ…」
吐息を溢しながら私の背中をそっと撫でる侑士の手の感触に堪らず、身体を支えていた膝から力がガクッと抜けていく。そのままベッドの上にうつ伏せになって倒れ込んだ私の上に、すかさず侑士も重なり合ってきて更に奥深くを突かれる。
止めどなく打ち付けられる快楽に耐えるように手を伸ばして真っ白なホテルのシーツを強く掴めば、表面に波が立ったようにシーツが乱される。
「もうっ…イッちゃう…!きもちっ…!」
「ええよ…、一緒にイこな?」
私の好いところを目敏く見つけた侑士がそこばかりを集中的に突いて、徐々にスピードを上げれば視界がチカチカ白んでくる。
「んっ…もうっ…!」
「うっ…」
全身から快楽が寄せ集められ、飽和点を超えた瞬間に全てが弾き飛ぶような感覚が襲ってきて一瞬頭が真っ白な世界に支配された。直後、ギュッと瞑った瞼の裏には真っ赤な光が昇った。
それはまるで北にある冷たい湖で身体を寄せ合うオシドリの紅い嘴が視界の奥に見えたようだった。
私の中に欲を吐き出した侑士が、私の上に倒れ込んだまま荒い呼吸を繰り返しているのを背中に感じる。

少しした後に呼吸も整った侑士が私の上から退き、中に埋められたままのものを引き抜いた。
ドロッとした感触が股を伝い、不快感に顔を顰めればサイドテーブルに置かれたティッシュで侑士がそこを拭ってくれた。
重たい身体を動かしてベッドに仰向けになれば、ベッドの上に膝立ちになって自分のものを処理ししている彼の姿が視界に入る。
「ねえ、侑士?」
「ん?」
行為の後の気だるげな調子で返事をしてきた侑士に言う。

「オシドリってねーー」







▽オシタリとオシドリを何度打ち間違いそうになったことか。



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