短編 | ナノ



はじまりの合図_


別に不満なんてない。
中学時代からずっと付き合い続けて互いに20代も半ばに差し掛かれば、周りからは「理想のカップルだ」「お似合いだ」なんて言われる。
10年近く付き合っていながら私たちは喧嘩なんて一度もしたことなかった。
でもそれはつまり互いに真剣に向き合っていない証拠でもあるのに、周りの人たちは「仲良しで良いね」なんて無責任な言葉をぶつけてくる。

こんなのが本当に理想なら随分つまらない人たちだと思う。
周助には不満もなければ期待もなかった。

「好きだよ」
私の耳元で囁く周助の声が聞こえた。
いつからかその言葉を紡ぐ彼の声が無機質さを帯びるようになった気がする。
はたまた、その言葉を受け止める私の心が無機になっただけかもしれない。
「好きだよ」は「これから始めるよ」の合図。
だから私も彼に“好き”を返して、「いいよ、始めよう」の合図を送る。

所詮私たちにはこれがお似合いだ。






▽不二周助の優しさの源が冷たい感情だったらいいな。




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