短編 | ナノ




piece of cake!!_


「光」
「なんすか?」
彼の目の前に置かれたガトーショコラを黙って見つめる。
「…」
「自分のあるやないですか」
「私のはガトーショコラとちゃうやん」
「そっすね」
「先輩からの一生のお願い…!」
「…」
目の前にいる彼からは呆れたような視線を向けられるが、それももう慣れたもんだ。
「なあ・・・?」
私の前にあるオレンジのタルトをそっと差し出す。
「…一口だけですよ」
そういいながら光は私のタルトを押し戻してくる。
「え”」
「自分から言うたくせに何ですかそれ」
ガトーショコラが乗ったお皿を少しこちらに寄せてくれる。
「ほんまにくれんの?」
小さなガトーショコラを光から強奪しているような気分になってしまって、なんだか急に申し訳なくなってしまった。
「いらんなら別にいっすけど」
そういってお皿を元に戻そうとする手を掴んで制す。
「いるいる、いるからそのままにしといて!」
「はいはい」
再び私のもとにやってきたガトーショコラに遠慮がちにフォークを指して一欠片掬う。
「それじゃあ美味いも不味いも分からへんやろ」
伸びてきた光の手が細いフォークを握る私の手を上から掴んだ。
そのまま光の手が勝手にフォークを動かしてガトーショコラの3分の1くらいを取って、お皿の端に乗ったクリームを掬った。

自分の手なのに自分の意志とは無関係に動くのが不思議で一瞬何が起こったのか理解が遅れた。
あぁ、私が遠慮してるんだと思ったんだな、と気づいて、
「そんなに貰っちゃ光の分がなくなってまうで」
そう言おうと口を開いたら、そのままフォークに刺さったガトーショコラが口の中に押し込まれてしまった。

「先輩の一生のお願い叶えたりましたんで、次は俺の一生のお願いもきいてもらえます?」
口内いっぱいに広がる濃厚なチョコレートとクリームの甘さが重く襲い掛かってくる。
口の中の水分をみるみる吸収していくガトーショコラと格闘しながら言葉を発することもできず、光の方を見て首の動きだけで返事をした。

「俺と付き合うてくれません?」

あまりの不意打ちにチョコレートの甘さが喉につかえて生理的な涙が浮かんでくる。
「俺の一生のお願い、叶えてくれますよね?」
涙目になりながら光を見れば、頬杖をついたまま笑みを浮かべている。
なんていうタイミングで言ってくるんだ、この男は。

光から貰ったガトーショコラを口いっぱいに頬張ったまま私は何度も頷いた。



▽that's a piece of cake!!
君のお願いを叶えるくらい、造作もないよ。




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