短編 | ナノ



attention please?_


「それそんなおもろいん?」
ソファに座って夢中で小説を読んでいたら声をかけられた。
別にこの小説が特別面白いんじゃなくて、財前がPCに夢中になってる間の暇つぶしにしてただけなのに。
「んー、まあまあとちゃう?」
「じゃあ別に今読まんでもええやろ」
デスクからソファに移動してきた財前が私の手から本を取り上げようとする。
「あと2ページでこの章終わるから待って」
特別面白いわけじゃないからといって進みかけている物語を急に中断されるのは話が違う。
そもそも財前が私を放置してPC作業をしてたのが悪い。

私の隣に座ってスマホを取り出した財前が15秒おきくらいにこっちをチラチラ見てくるから、ちょっと意地悪したくなって、文章を追うスピードを落としてみる。
「なあ」
痺れを切らした財前が私を呼ぶけど、本から顔を上げないまま無気力に返事をする。
「ん?」
「それ、まだ終わらへんの?」
ぶすくれた声で聞いてくるのが面白くて余計意地悪したくなる。
財前だっていつも「もうちょいやから」って言って私のこと放置してるくせに、自分が構ってもらえないとすぐ拗ねる。
「まだやね」
もはや小説の内容なんて頭に入ってこないし、文字だって視線でなぞってるだけで本当は読んじゃいない。
直ぐ近くに感じる財前のぬくもりが気になって、もうこの際読書どころじゃない。
隣にいる財前がスマホをソファの空いたスペースに放り投げて、私の顔を隣から凝視してくる。

それでも私は一生懸命読んでる風を装うためにわざとページを1枚捲って、ページ端を上から下に視線を動かしてみる。
変わらず至近距離でずっとこっちを見てくる圧に耐えられず思わずぷっと吹き出す。
「お前ほんまは読んでへんやろ」
「超読んでる。全集中や」
「うそつき」
ばっと本を取り上げられて、ソファの端っこに追いやられてしまう文庫本を黙って目で追う。
あーあ、栞挟んでないのになあ。まあでもちょうど章の変わり目だし、いっか。
いつもより少し長いキスを全身で受け止めた。





▽Twitterに上げてたものをほんの少しだけ修正。


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