短編 | ナノ



嘘も方便_


「なあ。俺といて幸せか?」

最初は幸せだったよ。
謙也くんの隣にいれるだけで満足だったし、手を繋いで歩けるだけで満たされてたよ。
でもね、やっぱりそれだけじゃダメだった。
私が謙也くんを見つめるみたいに見つめ返して欲しいし、私が会いたいって思うみたいに謙也くんにも私に会いたいって思ってほしい。

そうすれば私が喜ぶから、そんな理由じゃなくて。
謙也くんがそうしたいから、そういう理由で私に触れてほしいよ。

謙也くんは優しいからいつも私のために色々してくれたけど、謙也くんが本当にやりたかったことってその中にいくつあったの?

最初は嬉しくて堪らなった謙也くんとのキスだって、今となってはする度に虚しさが増すだけ。
触れられれば触れられるほど謙也くんとの距離を感じて、一番近くにいるはずなのに誰よりも遠く感じた。

「謙也くんは?」

「謙也くんは、私といて幸せ?」
そんな顔しないでよ。泣きたいのは私の方なのに。

「俺は…」

謙也くんは目線を左右に泳がせて次に続く言葉を慎重に探している。
そんな、私に気遣うようなことしないで、思ったことそのまま言ってくれればいいのに。それか、もういっそ酷い嘘でも吐いてくれたら謙也くんのこと嫌いになってあげれるのにね。

そういうところだよ。
優しい君のことを好きになったはずなのに、その優しさにこんなに苦しめられると思ってなかった。
嘘が付けない正直者の君に惹かれたのに、今は君がひどい嘘つきだったら良かったのにって思ってる。

「…ごめんな」
ごめんなんて言葉いらないから、だったらはっきり言ってくれる方がまだ楽だよ。
「最初からそんなに好きじゃなかった」「ちょっとした出来心だった」って正直に言ってよ。
そうやって最後までいい人演じてさ。
傷付けないようにっていう気遣いが一番堪えるんだからね。
本当に傷付けたくないなら、生半可な気持ちで他人の好意なんて受け入れちゃ駄目なんだよ。中途半端な優しさが一番残酷なんだから。

謙也くんがそうやっていつも私に嘘ばっかり吐くから、私も嘘吐きになっちゃった。

「いいよ。私もね、他に好きな人できたんだ」







▽謙也さん、別れてからめっちゃ引きずるタイプだったりしない?



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