短編 | ナノ



共犯_


初めて足を踏み入れた彼の部屋は、パブで白石くんの身体にもたれた時に仄かに香ったムスクの香りがする。あの香りの源はここなんだ、なんてぼんやりと考えながら頬や瞼に繰り返し落とされる口づけを受け入れる。

2本目のビールを空けた後私たちは手を繋ぎながら例の薄暗い急階段を上がった。
そのまま白石くんは私の手を引いて大通りまで出てタクシーを拾った。
てっきり歩いていける距離にあるホテルにでも雪崩れ込んでしまうのかと思っていたが、行先を聞くのもいよいよこの行動に名前がついてしまうような気がして憚られた。どこに行くつもりなんだろう。本当は分かっているような気もするけど、知らないフリをした方が自分のためになるような気がする。
後部座席でも彼はずっと私の手を握っているから久しぶりの温もりが心地よくて、半ば眠りそうになっていた。
「着いたら起こしたるから、少し休んでええで」
そう言って白石くんが私の頭を自分の肩の方に寄せてくるから、抵抗もせず彼の肩を借りて目を閉じて車の揺れに身を任せた。

服の上から背中をゆっくり這う白石くんの手を感じながら、自分の腕を彼の腰に回してぎゅっと抱きしめた。
キスを止めて少しだけ身体を離して私を見つめてくる白石くんがすごく優しい笑みを浮かべていて、その微笑みがなんだか凄く残酷に見えた。

「ええの?」
さっきまで夢中でキスしていた私の頬をそっと撫でながら聞いてくる彼はあくまでも甘い雰囲気のまま事に及ぼうとしているんだ。
どうせなら無理やり抱いて思い切り乱暴にしてくれたらいいのに、そうやって私の同意を得ようとして、そんなのずるいよ。

「…いいよ」
そう小さく答えたら、ちゅ、と唇に口付けられた。

「じゃあ…ベッド行こか?」
手を引かれて彼の寝室まで連れていかれる。ペタペタと触れる床の冷たさが私の酔いを醒まそうとしてくるから、ふと「あの人もこんな風に部屋に女を連れ込んだんだろうか」なんて考えてしまった。
そっと横たえられたシーツからは洗いたての柔軟剤の香りがした。やっぱり白石くんはいい香りがする。
ゆっくりと息を吸い込んでその香りを肺に満たそうとした瞬間、服の裾から白石くんの手が侵入してきて、直接肌に触れてくる。服の上から触られるとのは比べ物にならない感覚に背筋がぞわぞわする。
「…気持ちええな」
私の首筋に顔を埋めながら呟いた彼は、スッとブラジャーのホックを外して、吸い付くような彼の掌が背中からお腹そして胸へと辿り着く。
「…はぁッ」
じわじわと迫りくる快感に思わず吐息を漏らせば、白石くんは嬉しそうに笑って私を見つめてくる。
私の吐息もすべて飲み込むようなキスをされて、夢中で彼のキスに応じれば下腹部が疼くような感じがする。
私の唾液か彼のものかも分からなくなるくらい深いキスをして、不意に彼の片手が私の頭を撫でてくるから私も彼の頭に腕を回してその髪の毛を撫でた。両手で彼の髪の毛を梳けば、サラサラと流れる柔らかい感覚が気持ちいい。
私の胸を揉んでいた手が少しずつ下に降りてくるのを、酸素の足りない頭の片隅で感じて、これから与えられるだろう快楽を待ち望んだ。

「もうこないなってんで?」
唇を離しておでこをくっつけながら至近距離で低く呟く。
ショーツを雑にずらし、わざとらしく音を立てて私のそこを長い指で入り口を上下に刺激するのが恥ずかしくて私から彼の唇を奪った。2つの舌が絡み合うのと同時に、中に挿入された指に眉をひそめる。
「んん…白石くんッ」
中でゆらゆらと動かされる刺激がもどかしくて、思わず呼吸の途中で彼の名前を呼んで求めてしまう。
「どないしたん?」
相変わらず中で指を動かしている白石くんは私の様子を楽しそうに伺っている。そんな余裕を見せる彼に悔しくなって、自分の左手を彼のズボンに伸ばせば白石くんからも「…はぁ」と吐息が漏れる。
熱くなったそこを上からやんわり刺激していると、急に指の本数を増やされて奥深くに突き立てられ壁を擦られる。私の首の後ろに通されたもう片方の彼の腕が私の肩を強く掴む。
「やっ…んんっきもちいいっ…」

複数の指で好いところを執拗に攻められて、与えられる刺激に応えるように彼の背中に両腕を回して力任せに引き寄せた。自然と身体中に力が入って強く彼を抱きしめると、首筋にキスを落とされ、軽く吸い付かれた。跡、付けたの?どうして…?
そのまま彼が胸の先端を口に含んで、中にいれた指を激しく動かせば、頭がチカチカしてきて、何も考えられなくなり、漏れる声も我慢できなくなってくる。
「あぁっ…イクッ…!」
彼の背中に強く爪を立てて、思い切り抱きしめれば全身に刺激が走って頭が真っ白になった。
イった後も白石くんは私の中から指を引き抜かずに、そのまま動かさず深く突き立ててくるのが堪らなくて快楽が止めどない波のように何度も全身を襲ってくる。
「あぁ……!!だめっ……それ…やっ!」
「俺は何もしてへんで?」
いやらしく笑う彼が憎いのに、彼の指がもたらす快感に溺れてしまう。


快楽に身を任せて荒い呼吸を繰り返す私を上から見つめてきながら、白石くんが自分の衣服を取り払って挿入の準備を進める。
「もうええよな…?」
宛がわれたそれでクチクチと膣の入り口を刺激される。
もっと奥に刺激が欲しくて白石くんを見つめる自分はきっとだらしない女の顔をしているはずだ。
片手で自分のものを握ってソレで私の入り口をゆるゆるとなぞりながら、もう片方の手で私の目元を撫でて優しく微笑む白石くんの表情にドキッとした。
この場所で、こんな綺麗な顔にいつも抱かれている見知らぬ女の子を想うと少しだけ羨ましくなった。
こんなの、間違ってるのに。

ゆっくりと慎重に中を押し広げていく白石くんにもどかしくなって、自分の脚を彼の腰に絡めると白石くんの眉間に皺が寄った。
「…っあかんって」
困ったような顔で笑う彼が妖艶で自然と中がキュッと締まるのを感じた。
はぁぁ…と大きく息を吐きだした彼が私の膝裏に手をかけ、私の身体を小さく折りたたむ。
上から私の奥深くを打ち付けてくる刺激に、一際大きい声が漏れる。
「あぁっ…!!だめ…きもちいいっ…!!」
「んっ…俺も、むっちゃ気持ちええわ…」
ベッドが軋む音と肌がぶつかり合う乾いた音と、私たちの間から漏れる水音に思考が蕩けていく。
何度も激しく突かれて、白石くんの背中に回した腕に力を込める。
「もうっ…だめ、イッちゃう…!」
はあはあ、と荒い呼吸を繰り返しながら挿入を繰り返す白石くんも「俺も…そろそろやっ」と言ってどちらからともなく口付ける。
互いの唾液を交換するように舌を絡ませ、離れた間には細い糸が伝う。
急に私の脚を持ち上げ自分の肩にかけた白石くんは、私の腿を抱くようにしてラストスパートをかけてくる。目を瞑って顔を顰めて快楽に溺れる彼の表情が色っぽくて目を離せない。

グッと思いきり打ち付けられ、そのまま私の中で果てる白石くんの熱を感じながら私も同時に絶頂を迎え、快楽の底から全身を引き上げられたような感覚に陥り、背を弓なりにして白石くんを受け止める。
精を吐き出してそのまま私の上に倒れこんでくる彼の重みを感じながら、彼の部屋の天井を見上げた。肺いっぱいに彼の香りを溜め込んだ時に1つ気が付いたことがある。


浮気なんか誰も幸せにならないなんて。
それは嘘かもしれない。








▽同意が生まれた瞬間から二人は共犯者。
ただただ媾ってるだけの回でした。
翌日のゼミで何食わぬ顔して2人とも報告聞いて質疑とかしちゃうのえっちだよね。




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