real intention | ナノ

授業もHRも普段通りに終えて、今日もあっという間に放課後。このあとも普段通りに動く予定だから、掃除当番に邪魔にされながら自クラスの扉あたりで由羅を待つ。それからどっか寄ったりして由羅と遊びつつ帰る…―――を実行しようと鞄を手に、席をたったのが3分程前。教室の扉に背を預けてボーっとしていると、案の定掃除当番にほうきの柄でつつかれた。


「紫音どいてー」

「あ、ごめん」

「今日も由羅待ち?」

「うん」

「由羅って紫音の彼女だよね。んで彼氏は幸村…うわ両手に花。ずるー」

「あはは、なにそれ」


そんな会話をしていた友人が、不意に私から私の背後へと視線を向けた。片方の花が来たみたい、と笑った友人は教室へと入っていった。少し首傾げていれば、とんとん、と軽く肩を叩かれたのがわかった。
振り向けば幸村くんが立っていて、何故か微笑んでいる。その笑みはどこか鉄仮面。…なんだかこのあとは普段通りに動けないような気がしてきた。



04.恋は盲目?
(それとも、)





「…な、なに?」

「紫音、このあと用無いよね?どうせ暇だよね?」

「……どうせ暇だよ」


由羅とは明確な約束をしている訳ではない。だから皮肉を込めて“どうせ”と付けて返した答えは、そう、と幸村くんにはあっさり受け流された。


「ならちょっと来て?」

「どこに…?」

「来てくれるよね?」

「だからどこに?!」

「いいから、来てくれるよね?」


疑問符だらけで全然話が噛み合ってない。幸村くんは疑問系なのに拒否権がない雰囲気を醸し出しているなんて理不尽だ。……どちらも今更かな。
私が返事をする前に、幸村くんは来て、と腕を引っ張ってくる。ほんと見かけによらず力強いから、振り払えそうにない。


「…」

「ほら、早く」

「………」

「?…紫音?」


幸村くんの大きな手が私の腕を掴んでいる。それはもちろん、長袖だから制服の上からなのだけど、手首の辺りを掴まれているから彼の指が、私の手に直接触れていて。なんて認識するば、少しずつ鼓動が早くなっていく。どうしようどきどきしてきた。早くなにか言葉返さないと、とは思うのだけど…。


「―――…ね?」

「えっ、あ、うん…?」


突然の問い掛けに思わず頷いてしまったものの、幸村くんが何を言ったか聞き逃した。一人で動揺しているせいだ。


「…あの、幸村くん。今なんて言った?」

「来てくれるよね?って聞いたんだよ」

「え…い、今のなし!」

「ふふ。なし、なんてなしだよ」





***





結局、来てしまった。理由はどうあれ同意しちゃった訳だから。花見てよ、なんて可愛い内容かもしれない、と自分に言い聞かせたまではよかったんだけど、これはそんな可愛いもんじゃないようだ。


「…なに、これ」

「ん?ここは図書準備室だけど」

「いや場所じゃなくて…」


私が聞いてるのは、その図書準備室のこの散らかり具合の理由だ。局地的地殻変動でも起きたのか。どうして資料やらなんやらが床に散乱しているんだ。


「こんなとこ来てどうするの?」


「片付けるんだよ」


それ以外にないだろうなぁ、とは思ったけれど、それ以外の返答が望ましかった。これを片付けるなんて。


「なんで…」

「散らかってるからじゃない?」


幸村くんはこの部屋を見ながらうんざりした様子で私に言葉を返す。ごもっともではあるけれど。


「ボランティアで…?」

「まさか。頼まれたんだよ」


いや、押し付けられたんだ。と幸村くんは言葉を変えた。話によるとHRが終わってすぐに、幸村くんのとこに飯野が走ってきて、


「図書準備室の片付け変わってくれ!」

「…どうして?」

「俺西条の掃除当番変わってやる事にしたから」

「…飯野、図書委員だろ?何掃除当番と変わってるんだよ、優先順位おかしいよ」

「西条に言われたら断れないだろ。じゃよろしくなこの恩は忘れないからな!」


と、最後に鍵を押し付けて走りさったらしい。
飯野が引金パターンが出来上がりそうで怖い今日この頃。あいつどれだけ西条さん好きなの、可愛いのはわかるけど。だいたい飯野はなぜ幸村くんを選んだのか、度胸のある話だ。彼に押し付けていくなんて。恋は盲目ってやつなのかな、それとも単なる阿呆や馬鹿の類いなのか。


「また飯野…」

「そんなに嫌だったかい?」

「こんな量…というか散らかりようだし、面倒…あ、でも」


でも、幸村くんと一緒にいれる時間が増えるのは喜ばし……私も人の事言えないじゃないか。


「でも、なに?」

「な、んでもないよ気にしないで」

「…?」

「なんでもないよ!」

「はいはい」


半ば呆れられてるけど言えるわけない。


「じゃあ、飯野を絞めるのは今度にして、整理始めようか」

「し、絞め…?!」

「ふふ、冗談だよ。いちいち気にしなくていいから」


幸村くんが真顔で言うと冗談さが感じれないのは私だけか。そんな事を考えているうちに、彼は軽くシャツの袖を折る。あまり見ない腕捲りスタイルの幸村くんは、さっさと終わらせるよ、と近くの本を手に取った。…仕方ない、観念して始めますか。



09.XX.XX
13.02.10(加筆修正)
   
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