いつの間に眠ってしまったんだろうか。
シャトルの窓から外を見ると、雪がはらはらと降っているのが見えた。…そうか、もうフェンデルまでやってきたんだ。
身体を起こそうと態勢を崩した時だった。


「リチャード…。友情というのは、死んだらおしまいなんだろうか」
「ソフィのことかい?」


アスベルとリチャードの会話が聞こえてきた。私が起きたことによって話を中断させてはならないと思い、私は起き上がることを止めて静かに聞き耳を立てた。


「もし、俺たちがいなくなったら…俺たちの友情はどこへ行くんだろうって…。それは消えて亡くなるんだろうか。だとしたら、ソフィは…」
「アスベル、心配しなくてもそんなことはずっとずっと先のことだよ」
「そんなことはわからない。明日、もしかして今日来るかもしれない、そしたら…」
「アスベル…例えそうだとしても僕たちにできることは、ソフィと一緒に過ごす時間を大切にすることだけだ。そうすれば、何かきっと、彼女の心に残るはずだ」


アスベルとリチャードの言った言葉は、私の心に突き刺さった。
明日、明後日…いつくるか分からない“死”
私だって…あの日、まさかあんなことになるとは夢にも思っていなかった。いつもと同じように起きて、そして皆で朝食を食べて…そして…

いつも通りが当たり前に続くと思っていたのに…


リチャードの言葉の通り、私は父と一緒に過ごす時間を大切にできていただろうか。
父はもういない。どんなに後悔したって、いないんだ。だからこれから思い出を作ることも出来ない、一緒に過ごすことすらできない。

だから私は過去を振り返るしかないんだ。今、何も出来ないから。…果たして、私は家族の絆を大切に出来ていたのだろうか。








「あれーっ?名前じゃんっ!」


アンマルチア族の里に着くと、一番に声をかけてくれたのはパスカルだった。傍にはシェリアもいた。…ソフィは、ただ一人俯いていた。
私はそんな彼女に近づくと、頭の上に手を乗せて、ぽんぽんと優しく撫でる。


「久しぶり、ソフィ」
「名前…」
「パスカルもシェリアも、久しぶりだね」
「名前、あなた…今までどこにいたの?」
「ちょっとストラタ観光をしてたんだ。そしたら偶然会っちゃって、そのまま流れで着いてきちゃった」


舌を出しておどけた様に笑うと、パスカルが「名前が来てくれて嬉しいよー!」と笑ってくれた。シェリアには「本当に観光なの?」と疑われたけど。
それからヒューバートがパスカルたちにストラタで起こった出来事を話していると、ソフィが私の服をぎゅっと握っていることに気づいた。


「ソフィ?」
「名前…わたし、ね」
「ソフィ」

ソフィが私に何かを言う前に、アスベルがソフィに声をかけた。
すると、ソフィは私からそっと離れて少しだけ悲しそうに瞳を泳がせた。

「ごめんな…ずっと一緒にいてやる約束が出来なくて。俺はお前より先に死んでしまう。けれどお前と一緒に考えたり、悩む時間くらいは十分にある」
「一緒に…」
「俺はこれからお前と親子として一緒に考えていこうと思ってる。ソフィ・ラント。これからは、これがお前の名前だ」
「ソフィ・ラント…?」
「お前は今日から、俺の本当の家族になるんだ」


家族…



「ソフィを正式に、ラント家の子として迎えるということかい?」
「…親父が、俺やヒューバートのことを思ってくれたように…、そして今でも、俺の心の支えになってくれているように…、お前の支えでいられるようになりたいんだ。小さい頃は、俺の方が子供だったから、ちょっとおかしな親子だけど」
「…おかしくないよ。とっても…うれしい」
「兄さんの子供になるなら、ぼくとも家族ですね」
「そうなると弟くんはおじさんになるのか〜」
「なっ!」




…家族。

こんなことを考えるなんて、嫌なやつだけど。…羨ましい、と思った。
私は、まだアスベルのように考えることができない。誰かの支えになるなんて、できない。だって、まだ自分のことで精一杯なんだから。




いいなあ。



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