「亀車の手配と、大統領閣下への報告を兵に任せてくるので、少し時間を下さい」
「ああ、分かった」
「それと、ライフボトルとグミです。あとボトル系の薬品も…、必要なら使っていただいて構いませんので」
「だがこれはストラタ軍の備品だろ?貰っていいのか?」
「名前の一大事なんです。そんな細かい事を言っている場合ではありません。それでは、すぐに戻ってきますので」

ヒューバートはそう言うと、軍の箱から取り出してきた回復アイテムをアスベルに預けるとすぐにストラタ兵のもとへ行ってしまった。
僕は名前を背負い日陰に移動する。この黒いマントは暑いだろうと思い、脱がせるとタンクトップ一枚だった。…艶かしいその肌に、ゴクリと唾を飲むこむ。…駄目だ、そんなことを考えている時ではない。
僕はハンカチを取り出し、彼女の汗を拭う。…やはり、細い。細すぎる。まともに食事もしていないのではないか…?

「リチャード、何か薬を飲ませるか?」
「いや、それよりも水が必要だ。確か、持ってきた鞄にボトルに入った水がある気がするんだ」
「分かった、取ってくる」

アスベルはそう言うと少し離れたところに置いてあった鞄から水を取り出し、こちらへと持ってくる。
キャップを開け、それを名前の顔や手足にかける。

「な、なんでかけるんだ?」
「身体中が火照っている。冷ましたほうがいいと思ってね。飲ませるのは彼女が起きてからだ。でないと、喉に水を詰まらせるかもしれない」
「そうか…、でも名前は何で…」
「分からない。…それに、何故男装をしてまで…こんな仕事を」

気を失っている彼女を見る。
何かあったのか?…だったらどうして自分を、自分達を頼らない?それとも、僕たちに言えない秘密を隠しているのか?
名前…君は、一体…

「お待たせしました。亀車の用意もできたみたいなので、すぐ…って!な、な…っ!」
「どうしたんだ?ヒューバート」
「な、何故名前は、そ、そんな薄着なんですかっ!」
「暑そうだから脱がせたんだよ」
「それにしても、ですよっ!名前は女性なんです!分かってますか!?」
「分かってるよ。…誰よりもね」
「っ…」
「名前は熱射病かもしれない。急いで亀車に乗せて、身体を休めてあげないと」

僕はそう言うと再び名前を抱える。頭に先ほどの黒いマントを被せて、日が当たらないようにしてあげる。
そして、ストラタ兵誘導のもと亀車に乗り込んだ。

「…ぼくだって、陛下よりも分かっていますよ…っ」
「…いやあ、若いな」
「っ、教官!からかわないで下さいっ!」







旅が終わって一人になって、父のことを考える時間が増えた。
半年前は、ラムダのことやリチャードのことがあって、考えずにすんだ。だけど、今は…
考えたくないわけじゃない。だけど、思い出したくないのだ。現実を。大好きな父がいないという、現実を。
…暴星魔物のせいで全てが無くなった。船も、船員のみんなも、お父さんも。

…悲しかったのだ、私は。
どうしようもなく…悲しかったから、私は気を紛らわせたかった。…忘れたかったんだ。忙しくなったら、あの時のように忘れることが出来ると思った。
…だけど、駄目だった。だって、私は一人だから。あの時はアスベルや、ソフィや…みんながいた。だから寂しくなかった。だけど、今はどうだろう。…今は一人だ。一人でいると、話を聞いてくれる人もいない。相談することもできない。…一人は、怖い。だけど、迷惑をかけたくなかった。

誰にも迷惑をかけないように、一人で生きていくと決めたんだ。だから、私は…


「んっ…」

涼しい、そして…何故か頭が冷たかった。
目をあけると、何処かの宿屋の一室。…あれ、私は…

っ!そうだ、私は…ストラタ砂漠遺跡で魔物退治の依頼を受けて、それで…
慌てて起き上がると、額に乗っていた氷が入った袋が落ちた。…そうだ、頭がクラクラして、魔物に遭遇して、それから…

するとドアが開く音がした。…入ってきたのは、リチャードだった。
そうだ、思い出した。魔物に会う前に…リチャードたちを見たんだ。…魔物の一撃を受けた私。…その後気絶して、ここまで運ばれたってこと…か。

「名前…目が覚めたんだね!」
「リチャー、ド…」
「良かった…。頭はクラクラしない?…そうだ、水を飲んだほうがいい」
「…うん、大丈夫。ありがとう…」

リチャードから水の入ったグラスを受け取り、飲む。乾いた喉が潤う…、生き返った気分だ。
だけど…それより…

私はリチャードを見つめる。すると、その意味が分かったみたいで、リチャードの表情も真剣なものに変わる。


「もう少し休むといい。…暫くしたら、皆を連れて来るから。…その時は…」
「わかってる。全部、話すから」

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