「ところで、名前は呼んでいないのか?」
アスベルの質問に、僕は固まってしまう。…今僕が一番聞かれたくないことなのに。
風機遺跡の件でアスベルたちを呼んだ。彼女も呼びたかった、だけどそれは叶わなかった。
どこにいるのかさえ分からなかった。半年前、ラントで別れてから彼女に会うことは一度も無かった。
「…名前と、連絡が取れないんだ。魔物を討伐する時に、色々な所へ立ち寄り彼女の事を見た人はいなか聞いてまわっているんだが…」
「ぼくも同じように探しましたが、名前の情報を手に入れることが出来ませんでした」
「それって…大丈夫なのか?」
「気になるわね…名前、無事だといいのだけれど…」
半年前のあの件で、彼女の存在は僕の中で今までよりいっそう大きなものになった。
だからこそ、彼女がいないと変な焦りを感じてしまう。彼女は…名前は今一体どこへいるのだ?彼女は今、何をしているんだ?
なんで、僕たちの…僕の目の前に現れないんだ?
彼女以外の行方が知れているからこそ、不安で仕方がない。
「とにかく、名前のことは後で考えよう。今は風機遺跡へ向かい、原因を突き止めないか?」
「そう、ですね…」
「じゃあリチャード、案内を頼むよ…リチャード?」
「っ、ああ…すまない。それでは向かおうか」
ああ、名前。
君に伝えたいことがたくさんあるんだ。君と少しでも近くにいたいんだ。もっと君のことを知りたいんだ。…ねえ、君は今どこにいるんだい?
槍を振り、魔物の体液を振り落とす。
私はため息をつく。…さすがに、砂漠でこの格好は暑い。暑すぎる。
「おお、セシリオ。今回も素晴らしい働きだった!これは報酬だ。またよろしく頼むぞ?」
「…確かに頂きました」
袋の中のガルドを確認し、そしてそのままその場を去る。セイブルイゾレの宿屋まで行き、黒いマントとマスクを取るとシャワールームへ向かった。
服を全て脱ぎ捨て冷たい水を浴びる。身体は汗でベトベトだった。…だけど仕方ない、だってバレたら終わりだから。
シャワーを浴びて、袋からいつもの服を取り出して着る。そして棚の上に置いてあった、大切な宝物を手に取った。
「…リチャード、みんな…」
何も言わずにみんなの前から消えたから、きっと心配してるよね。
ごめんなさい、でも…私にはやらなくちゃいけないことがあるんだ。…だから…
私はベッドに横になった。そろそろ夜になる、砂漠の夜は寒い。
ランプを消して毛布に包まり、目を瞑る。明日はユ・リベルテで依頼。夜明けには移動を開始しないといけないな…。
夜は静かにふけていった。