夏。

半田真一は迷っていた。
この事実を名前に伝えるかどうかを、だ。

半田が見つめる先はボロボロの部室。看板にはサッカー部の文字。そしてその前でタイヤを自分の体にくくりつけてボールを蹴る少年。そしてその傍らで見守る…多分マネージャー。
半田は三日ほど前にこの光景を見つけた。最初は「お、サッカー部。名前が喜ぶじゃん」なんて思ったが、どうやら部員は2人。しかも一人はマネージャー。サッカーをするのは1人しかいないという事だ。これでは満足に練習もできないのではないのか?

サッカー部?の位置は幸い裏門の方向にあるため、俺たち一年生の校舎からは見えない。それに帰るときはいつも正門から帰っていたので、名前と染岡はこのことを知らない。因みになんで半田が知っているかというと、新しく出来た友達と学校探検をしていたところ、見つけたのだ。

と、とりあえず染岡に相談するか。と思い教室に戻った。


教室に戻ると、名前は机の上に伏せて寝ていた。染岡はそんな名前の頭を撫でながらサッカー雑誌を読んでいる。
半田が教室に戻ったのを見て、染岡が声をかける。

「お、半田。用事とやらは終わったのか?」
「あ…あぁ。そのさ、染岡…」

そこまで言って、半田は口を閉じる。もし名前が寝ているわけじゃなくてただのまどろみ状態だった場合、話を聞かれる可能性がある。
染岡になんだよと言われたが、何でもないと言った。あとでメールしよう。うん、メールしよう。

染岡が名前をおぶり、半田が彼女の鞄を持つ。激軽だった。前に不思議に思って鞄を開くと、携帯とハンカチとティッシュと小さなサイフしか入っていなかった。多分今日もそうなのだろう。こいつ、鞄持ってこなくていいじゃねぇかと染岡が笑っていたのを思い出す。

下駄箱に行くと、半田は名前の靴箱から彼女の靴を取り出しそれを履かせてあげる。そして自分も履き替える。
染岡は名前を背負いながら靴を履き替えることに慣れていたのでかなりスムーズに履き替えていた。

靴に履き替えた染岡は歩き出す。だが半田は染岡にだらだらと着いていきながら、あれ?と思った。


「なぁ染岡。なんでそっち行くんだ?」
「あぁ、裏門から出てすぐのところに美味いたこ焼き屋があるんだとさ。名前が行きたいって言い出して。いいか?」
「別にいいけど…でも、あ」
「どうしたんだよ」

裏門から帰るということは、あのサッカー部?を知られてしまうかもしれない!
ど、どうする半田真一。どうする半田真一!どうする半田真い「あれ、サッカー部?」

染岡が呟いた。ああバレた。いや、染岡には夜メールする予定だったんだが、今は名前がいる。寝てるけど、いや、寝てるけど!


「部員すくねーな、半田」
「あ、あぁ…そ、そうだな」
「…半田、なんか今日おかしいぜ?」
「な、なんでもないさー」
「…」
「なあ」

突然聞こえた声に半田はビクリと肩を震わせた。
驚いて見ると、そこにいたのはあの一人で練習していたサッカー部の奴だった。あぁ、声かけられた。


「さっきから見てただろ?お前達もサッカー、やらないか?」

ニコリと笑ってサッカーボールを差し出すそいつ。焦る半田とは違い、ニコリと笑う染岡。
後ろの名前を揺すって起こす。

「おい起きろ名前。お前の大好きがあるぞ」
「んー…だいすき?」
「あぁ大好きだ。ほら、目開けてみろよ」
「…ん」

名前の目が開く。その瞳に映し出されたのはサッカーボールだった。
名前の目がパッと開いた。こんなに覚醒した名前を見たのは久しぶりだ、と半田は思った。


「サッカー!」

名前は大声でそれだけ言うと、染岡の背中から降りてそいつの持っていたサッカーボールを受け取りにこりと笑った。


「あぁ、サッカーだぜ!一緒にサッカーやろうぜ!」
「うん!」

もういいか、と半田は笑いながら呟いた。





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