桜の花びら散る通学路。
半田に手を引かれ、染岡に鞄を持ってもらい、真新しいぶかぶかの制服に身を包むのは我らがぐだらー・名前。
新入生なのに、なんとも緊張感の無い画である。
「ほら、着いたぞ名前。入学式なんだからシャキっとしろ、シャキっと」
「んー」
「にしてもすごいな。あの稲妻マーク。校長の趣味?」
雷門中学校は今まで通っていた小学校の2倍は大きいな、と半田は思った。
校門には「雷門中学校 入学式」と書かれた看板が立っており、染岡と半田はなんだか急に緊張してきた。
「おい名前、入学式では寝るなよ?」
「そうだぜ?怖い先輩とかに目をつけられるかも…」
「うん?せんぱいって何」
「はぁ…そこからか。いいか、名前…先輩ってのはな」
染岡が「先輩」の説明を始めると、半田は苦笑しながら辺りを見回した。
入学前に届いた資料に、クラス分けの表は校舎近くに貼り付けてあります、という文字を見たので探しているのだ。
染岡と名前をその場に置いて、生徒たちが集まっているボードの近くに走っていく。
そして自分と名前と染岡の名前を見つける。
「あ!…」
半田はニヤニヤが抑えられなかった。早く伝えないと、そう思い未だに「先輩」の説明を続けている染岡と半分眠りの世界に入っている名前の下まで走っていった。
「なぁ染岡、名前!」
「お前どこ行ってたんだ?」
「そんなことより!3人とも、同じクラス!」
「マジかよ!オイやったな、名前!」
「えー?」
「えーじゃなくて!俺たち3人同じクラスだぜ!」
「ホント?半田と染岡と、一緒?」
「あぁ一緒だ!やったな!」
「うん、嬉しいよ」
ほにゃっと笑った名前の頭を二人で撫でて、3人は自分達のクラスに向かった。
「あー、なんかドッと疲れたな」
「校長話長いって!その後の理事長?って人のはなんか面白かったけどな。そういえば名前、入学式の途中珍しく起きてたよな」
「……」
「名前、どうしたんだ?」
「…ねぇ、半田」
「どうしたんだ?」
中学校へ向かう時と同じように半田と手を繋いだ名前。だがその様子は何だかおかしい。
半田と染岡は顔を見合わせ、眉をしかめる。まさか、また何か言われたのか?…でも、そんな入学していきなり。…いや、でもこいつホームルームで爆睡してたし…。
なんて悶々と考えていると名前が口を開く。
「部活紹介の時、サッカー…あった?」
「あぁ…そういえば、無かったな」
「サッカー部、入りたかった」
「…まぁ、無いんなら仕方ねぇだろう」
「仕方、ないけど」
「部活でなくても俺たちと河川敷で練習すればいいだろ?」
「そうだね。…」
染岡と半田は顔を見合わせる。多分名前は小学校の時のクラブや休憩時間の時みたいに、たくさんの人とサッカーをしたいのだろう。
だがサッカー部がないのなら仕方ない。休憩時間…といっても時間は小学生のときのようにあるわけではない。放課後だって、部活などが入って忙しい。だとしたらサッカー部に入るのが一番良かったのだが。
染岡は名前の頭をポンポンと優しく叩き、笑顔で言う。
「俺ん家行って、サッカーボール取ってこようぜ。今からサッカーやろう」
「ああ、いいな!やろうぜ、名前」
「…うん、ありがとね。染岡、半田」
笑った名前はいつもより少し寂しそうだった。